【弁護士解説・超保存版】電子契約を始める際に知っておくべき法律こと
【弁護士解説・超保存版】電子契約を始める際に知っておくべき法律こと

法律の専門家である弁護士が電子契約について詳しく解説

目次

そもそも電子契約とは何か?

そもそも電子契約とは何か?

電子契約について確立した法律上の定義はありませんが、一般的には、従来の紙ベースの契約書ではなく、電子的な手段により契約を作成することだと言われています。

そもそも契約とは、合意によって当事者間に権利や義務を発生させる法律行為をいい、基本的には契約方式には制限はありません。法律上、契約書その他の書面の作成は契約の成立要件ではなく、申込みと承諾の意思表示が合致すれば口頭でも成立するのが原則です(民法522条)。

したがって、口頭でも紙の契約書でも電子的な手段による電子契約でも有効に成立し、法律的には問題ありません。

また、電子契約には紙の契約書とは異なり押印はありませんが、そもそも押印は契約の有効要件ではありませんので、法律上は契約において押印をしなくても電子契約の効力に影響は生じません

このことは、昨年のコロナ禍でのテレワーク推進に関して、民間における押印慣行が問題になった際に、2020年6月19日付で内閣府、法務省、経済産業省から出された「押印についてのQ&A」という文書でも明らかにされています。

従来は形に残す手段として、紙の契約書が用いられてきましたが、現在は契約締結の迅速性、契約管理の容易性等の要請に応えるものとして、電子契約の活用がますます注目されてきています。また、近時は電子契約のプラットフォームサービスの事業者が増加しており、電子契約が安価かつ安全に利用できる環境も整備されてきています。

法律上書面性が求められているものに注意

法律上書面性が求められているものに注意

先ほど、電子契約でも法律上は問題ないと言いましたが、業法等で規制されている契約や書面の交付義務については、紙の契約書でなければいけない旨が定められており、電子契約が利用できない場合もあるので注意が必要です。

書面の作成義務

一定の契約については、法律上、書面の作成が義務になっています。

例えば、借地借家法に基づく定期借地契約(借地借家法22条)、事業用定期借地契約(同法23条3項)、定期建物賃貸借契約(同法38条1項)や、任意後見契約、特定商取引法に基づく交付書面等(特定商取引法13条)、投資信託の約款(投資信託及び投資法人に関する法律5条)などについては、法律上書面でなければ有効ではないという規定があります。

その趣旨は、特に重要で慎重な判断が必要となる一定の累計の契約について、要式を厳格化することにあります。

他方、このような書面性が求められる契約類型であっても、個人の保証契約などについては、法律上電子契約によることができる旨が規定されています(民法446条2項・3項)。

書面の交付義務

法律上書面の作成が契約の成立要件とはなっていなくても、法令により契約締結について書面の交付等が義務付けられている類型の契約があります。この場合も、法律上書面等の電子化を認める例外的な規定があれば、電磁的な方法により交付等を行うことができます。

例えば、下請け取引における発注内容等を明記した書面の交付(下請法3条)や、建設工事の請負契約書等の交付(建設業法19条2項・3項)などは、法律上相手方の承諾や技術的基準を満たすことなどの要件を満たせば、電磁的方法による書面の交付が認められています。

消費者保護の規定に注意

消費者保護の規定に注意

電子契約は、紙の契約とは異なり非対面でかつパソコン上で行うことから、法律上通常の契約とは異なる消費者保護の規定が規定されています。

事業者のフォーマットに従って消費者が申込みを行うような電子消費者契約では、消費者保護のため、消費者の錯誤には原則として民法95条3項(表意者の重過失がある場合に錯誤が主張できないという規定)が適用されず、消費者の重過失の有無にかかわらず取り消すことができるとされています。

例外的に、事業者が消費者の申込み意思の有無について確認を求める措置を講じていた場合、または消費者から当該措置が必要ない旨の意思表明があった場合には、民法95条3項が適用されることになります。

このように、法律上電子契約という性質を踏まえて、一定の消費者保護が図られています。

電子契約の証拠能力

電子契約の証拠能力

契約書を作成する目的の一つに、事後的に契約の存在と内容を証明するために作成するということが挙げられると思います。民事訴訟法は、電磁的に作成された契約も証拠能力を制限する規定はないため、電子契約も証拠能力を有し、証拠として用いることができるのが原則です。

しかし、電子契約を含む電子データについては紙の契約書と比較して、偽造や改ざんの可能性が高いという側面もあります。そのため、関連データの精査やその証明力を立証するためのデータの保管などが重要です。

一般的な電子契約のプラットフォームサービスの場合、電子署名やタイムスタンプ等を用いることができます。後に紛争になって訴訟になった場合に、電子契約の有効性が争われる可能性もありますので、電子契約を利用する場合は、紙の契約書に署名押印した場合と同じ証拠能力を担保するために、電子署名やタイムスタンプの機能を利用すべきでしょう。

電子署名と法律上の契約の成立の真正

電子署名と法律上の契約の成立の真正

契約書の成立の真正とは

契約書の成立の真正とは、契約書が作成者の意思に基づいて作成されたことを意味します。なぜ成立の真正が必要かというと、裁判の証拠として提出する場合は、法律上成立の真正が最低条件となるからです。すなわち、文書の記載内容が証拠として役に立つかを判断する以前に、文書の作成者及び文書の記載内容がその作成者の意思を表していることが認められる必要があります。

契約書における真正の判定と民事訴訟法のルール

法律上、訴訟において、文書を証拠として提出する場合、その真正な成立(文書が作成者の意思に基づいて作成されたこと)を証明する必要があります(民事訴訟法228条1項)。

押印された文書については、法律上、「私文書は、本人またはその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」(民事訴訟法228条4項)という規定があります。

つまり文書に押印をする者は、その文書の内容が確定した後、それを認識した上で押印をすることが通常であるという経験則が存在するとされていることから、押印がされた文書については、文書が真正に成立していることが推定されることになります。

もっとも、上記のルールはあくまでも推定であり、押印後に改ざんがされたなどの事実の反証がなされれば、推定が覆ることになります。

また、文書の真正な成立の証明は、押印によってしなければならないというものではなく、必ずしも上記の推定規定の規律による必要はありません。そのため、押印がない文書についても、成立の真正が認められないということではありません。

「二段の推定」とは

判例上、「印影(印鑑を押したときに紙に写される朱肉の跡のこと)が本人または代理人の印章(印鑑本体のこと)によって顕出された事実が確定された場合には、反証がない限り、当該印影は本人または代理人の意思に基づいて成立したものと推定するのが相当である」として、その推定がなされる結果、当該文書は本人の押印があるときの要件を満たし、その全体が真正に成立したものと推定されるとしています。

これは、自己の印章は厳重に保管・管理しており、理由もなく他人に使用させることはないという経験則から、特定の印影はこれに対応した印章の所有者本人にしか作成できないと推測してよいということを根拠としています。

つまり、①文書の作成名義人の印影が、当該名義人の印章によって顕出されたものであるときは、反証のない限り、その印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定され(一段目の推定)②「本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と定める民事訴訟法228条4項の規定により、文書全体の成立の真正が法律上推定されます(二段目の推定)。これを、「二段の推定」といいます。

この規定は、あくまでも裁判上の文書の形式的証拠力(文書の証明力を判断するにあたって最低限必要な条件)の推定に関するルールであって、契約書や領収書等の文書の押印のルールについて定めるものではないことに留意が必要ですが、電子契約の利用の場合には知っておきたいルールの一つです。

電子契約の場合

電子契約についても、その電子契約が作成者の意思に基づいて作成されたことを明らかにしていく必要があります。電子契約の場合、作成者の意思に基づいて作成されたことを明らかにするため、電子署名を利用することになります。

日本では、電子署名法及び認証業務に関する法律(以下、「電子署名法」といいます。)において、以下の要件を満たす措置が電子署名と定義されています。

  1. 電子文書が署名者の作成にかかるものであることを示すためのものであること(署名者識別機能・電子署名法2条1項1号)
  2. 電子文書について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること(改ざん検知機能・電子署名法2条1項2号)

そして、電子署名が行われた場合、「これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるもの」である場合には、その電子署名が行われた電子的記録については、真正に成立したものと推定されると定められています(電子署名法3条)。

つまり、本人でなければ使用することができない方法によるものである場合には、法律上成立の真正が推定されることになります。

より具体的には、電磁的記録に推定効を付与する要件として、公開鍵暗号方式を利用した電子署名の場合「これを行うために必要な符号及び物件」とは、署名鍵及び署名鍵か格納された物理的な媒体を指し、これを適正に管理することで「本人だけが行うことができることとなるもの」とは、①署名鍵については、十分な強度の暗号が用いられていることを指し、②署名鍵が格納された物理的な媒体については、本人以外に使用不可能な方法で管理され得るものであることを指すと解されています。

なお、電子署名法3条は、電子署名を行ったのが本人であること自体を推定するものではなく、電子署名を行ったのが本人であると裁判所により認定されることを要件として、電磁的記録の成立の真正を推定するものであるとされている点に注意が必要です。

このことから、法律上は印章の保管の厳格さを根拠とする二段の推定における印章に関する一段目の推定は、電子署名については及ばないということになります。

電子署名法3条の電子署名がない場合はどうなるか

電子契約に、電子署名法3条の電子署名がない場合であっても、契約当事者間の意思の合意を明らかにすれば、裁判所により電子契約の成立の真正は認められ得ることになります

そのため、電子契約を作成するに際しての契約当事者間のメールや議事録、メモ等のやり取りを示すものを証拠とすることにより、電子契約の成立の真正が認められることもあります。

クラウド事業者における電子契約プラットフォームサービス

クラウド事業者における電子契約プラットフォームサービス

クラウド技術における電子契約

リモート環境において、特に利用が増加しているのが、クラウド事業者における電子契約プラットフォームサービスです。

電子契約のプラットフォームにおいて利用者の身元をどのようにして確認し、電子契約におけるなりすましのリスクに対応するかは、大きく分けて、電子署名技術を一切用いない方法と、利用者の身元確認について、電子署名技術を用いる方法があります。

前者の電子署名技術を一切用いない方法は、事業者が電子署名を行うことによって、その署名時点における電子契約の文書がその後変更、改ざんがなされていないのを技術的に検証できるようにします。

プラットフォーム事業者は契約当事者のプロファイルを作成し、アクセスの履歴(IPアドレスを含みます。)、アプリケーション、サービスの利用場所、利用者が登録した署名などを記録し保存します。これらの情報は、法的な紛争が起きた際も重要な証拠となります。

後者の電子署名技術を用いる方法は、各当事者が電子署名を利用してクラウド上に署名します。クラウド上のサービスに電子証明書と秘密鍵を補完し、契約者本人はこのクラウド上のサービスにアクセスし、電子署名を行うというリモート署名を用いることが多いです。この方法によることが、電子契約の真正性のためには確実といえます。

リモート署名の法的位置づけ

リモート署名による署名は、電子署名法3条における推定効が及ぶかという問題があります。

この点、内閣府の規制改革推進会議においては、上記リモート署名による署名でも、電子署名法2条1項の①電子文書が署名者の作成にかかるものであることを示すためのものであること②電子文書について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること、の各要件を満たし、電子署名法における「電子署名」に該当するという認識が示されています。

その上で、署名鍵が十分な強度の暗号が用いられていること、署名鍵か格納された物理的な媒体について本人以外に使用不可能な方法で管理され得るものであることなどの基準を満たすリモート署名は、電子署名法上における推定効が働くことは十分にあり得るという解釈が示されています(日本トラストテクノロジー協議会「リモート署名ガイドライン」参照。)。

したがって、現在の技術的な環境を前提とすると、上記のリモート署名の環境が整ったプラットフォーム事業者による電子署名サービスは、十分に信頼して活用し得るものということが言えると思います。

電子契約と印紙税

電子契約と印紙税

印紙税とは、法律上、契約書や領収書等の「文書」の作成の際に課される税金をいいます。契約書においては、一定の類型の契約書1通ごとに印紙税法で定められている印紙税を、収入印紙を貼る形で納税する必要があります。

ここで、印紙税の対象となる「文書」に電子契約も含まれるのかが問題になりましたが、既に過去の国会の答弁等でその解釈は否定され、現在では印紙税の対象は紙の「文書」のみを指し、電子契約などの電子データは「電磁的記録」と呼ばれて区別されています

したがって、結論として電子契約の場合は、印紙税は課税されません。印紙税がかかる請負契約や継続的売買契約などを締結する機会の多い事業者にとっては、電子契約の導入は印紙税の節約にもなるので、大きなメリットといえます。

電子帳簿/電子台帳管理の法律

電子帳簿/電子台帳管理の法律

電子帳簿/電子台帳管理とは

法律上、電子帳簿/電子台帳管理とは、一般に紙で行われている帳簿や台帳の作成・保管を、電磁的方法により行うことをいいます。事業者は、電子化により業務の効率化や費用の削減が可能になり、記録の管理が容易になるという利点があります。

導入の留意点

電子帳簿/電子台帳管理の導入にあたっては、対象となる帳簿・台帳にかかる電子化の規制の有無を確認する必要があります。法律上、電子化する場合の要件が定められている帳簿や台帳は、法律上の要件を満たす方法で電子化を行う必要があります

例えば、法律上、会計帳簿、事業に関する重要な資料及び計算書類等は、法律上の要件を満たす方法によれば、主務官庁への届出等をせずに電磁的記録によって作成・保存することができます(会社法433条1項2号、435条3項)。

一方で、国税関係書類を電子化する場合、法律上納税地等の所轄税務署長の承認が必要となります(電子帳簿保存法)。

電子帳簿保存法

電子帳簿保存法は、税法で備付及び保存が義務付けられている帳簿や書類の電子的記録等による保存と、電子取引により授受された取引情報に係る電磁的記録の保存について規定しています。

納税者は、国税関係帳簿、国税関係種労委の備付及び保存について、納税地等の所轄税務署長の承認を受けることにより、電磁的記録等により備付及び保存が可能になります(同法4条)。

詳しい方法は、国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類及び電子取引関係】」をご参照ください。

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