この記事では、収入印紙が持つ役割と、電子契約において収入印紙が不要となる根拠について、国税庁の見解を踏まえ解説。
電子契約サービスの導入によってもたらされるメリットも併せて紹介しているので、契約書類の電子化をお考えの方はぜひ参考にしてみてください。
そもそも収入印紙はなぜ必要?契約書類における役割
まずは、収入印紙の概要と、収入印紙が必要となる文書の種類について詳しく見ていきましょう。
収入印紙の役割
収入印紙とは、税金や行政関係の手数料の支払いに使用する切手のような紙のことです。収入印紙は財務省から発行され、印紙税をはじめ、不動産登記時の登録免許税や国家試験の受験手数料など、様々な場面で貼付けが必要となります。
収入印紙は郵便局や法務局、またコンビニエンスストアなどで販売されており、入手自体は比較的簡単ですが、収入印紙は単に領収書などに貼付けるだけではその効果を発揮しません。
収入印紙を貼付けたうえで、割印(消印)を押すことによってはじめて納税が証明されるのです。
割印のない印紙は税務調査で指摘される要因となるため、印鑑またはサインによる割印を忘れないようにしましょう。
印紙税法上の「契約書」
収入印紙は印紙税法が定める「契約書」の定義に該当するものが対象となります。印紙税法では、契約書について以下のように定義されています。
契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず、契約(その予約を含みます。以下同じ。)の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実(以下「契約の成立等」といいます。)を証すべき文書をいい、念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書又は契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解又は商慣習に基づき契約の成立等を証することになっているものを含む
引用元:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/02/01.htm)
国税庁によると「契約書」と明記されていなくても、契約成立の際の文書・契約成立後の改定文書および補足文書・契約当事者の一方のみが作成する文書などに該当する場合は、契約書として扱うということです。
課税文書に含まれる「契約書」
印紙税法では、印紙税が課せられる文書(課税文書)として、第1号から第20号まで、合計20種類の文書が定められています。
この20種類のうち、収入印紙の貼付けが必要な「契約書」の一覧は以下の通りです。
第1号文書 | 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書・地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書・消費貸借に関する契約書・運送に関する契約書(傭船契約書を含む) |
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第2号文書 | 請負に関する契約書 |
第5号文書 | 合併契約書又は吸収分割契約書若しくは新設分割計画書 |
第7号文書 | 継続的取引の基本となる契約書 |
第12号文書 | 信託行為に関する契約書 |
第13号文書 | 債務の保証に関する契約書 |
第14号文書 | 金銭又は有価証券の寄託に関する契約書 |
第15号文書 | 債権譲渡又は債務引受けに関する契約書 |
なお、印紙税額は契約書の種類によって異なるため、詳しくは国税庁のホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/inshi301.htm)をご参照ください。
【国税庁見解まとめ】電子契約が課税対象にならない理由
紙で契約書を交わす際に必要となる収入印紙ですが、電子契約の場合には印紙税の納税が不要とされています。
ここからは、電子契約が印紙税の課税対象にならない根拠について、国税庁の見解と合わせて見ていきましょう。
印紙税法に対する国税庁の解釈
国税庁のホームページには、印紙税法で定義される課税文書について、以下の3つが挙げられています。
(1) 印紙税法別表第1(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証されるべき事項(課税事項)が記載されていること
(2) 当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること。
(3) 印紙税法第5条(非課税文書)の規定により印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと。
引用元:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7100.htm)
またこれらの文書における「作成」の定義として、国税庁ホームページでは以下のように記されています。
法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。
引用元:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/inshi/inshi01/07.htm)
この文章で注目すべきは、文中に「課税文書となるべき用紙等」と表記されている点です。
つまり、国税庁の見解より、課税文書とは紙媒体の契約書のことであり、電子契約は課税の対象にならないと解釈できるのです。
印紙税に関する事前照会への国税庁による見解
国税庁ホームページ内の「請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について」では、以下のように見解が記されています。
注文請書の調製行為を行ったとしても、注文請書の現物の交付がなされない以上、たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならないから、印紙税の課税原因は発生しないものと考える。
引用元:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/about/organization/fukuoka/bunshokaito/inshi_sonota/081024/01.htm)
つまり、電子契約では「電子文書(電磁的記録)で契約を交わすため文書を作成した」とは言えず、印紙税は非課税になるということです。
参議院質疑でも印紙税が非課税との答弁
参議院のホームページにある「質問主意書」(第162回国会、答弁書第九号)に、印紙税に関連した答弁が記載されています。
専ら文書により作成されてきたものが電磁的記録により作成されるいわゆるペーパーレス化が進展しつつあるが、文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなる
引用元:参議院ホームページ(https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/162/touh/t162009.htm)
このように、国税庁および政府の見解として、電子契約による契約書は印紙税が課税されないことが示されています。
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電子契約サービスの導入はコスト削減に効果的
現在書面で取り交わしている契約を電子契約に移行すれば、印紙税が非課税となり、節税効果を期待できます。
1件あたりの印紙税額は数百円程度だとしても、年間で課税額を合計すれば大きな支出です。
特に高額な契約を行う場合は印紙税も数万円・数十万円単位になってくることから、電子契約による節税効果は決して少なくないことがわかります。
また電子契約サービスを導入すると、文書の印刷代・インク代・製本代・郵送代といったコストもまとめてカットすることができます。
文書作成や郵送業務に割く人件費も抑えられるため、電子契約サービスの導入にかかるコストを踏まえても、電子契約を導入するメリットは大きいと言えるでしょう。
電子契約において収入印紙が不要なことへの賛否
節税の観点から、電子契約への移行をすることには、賛成の意見が多いと思われます。
しかし、電子契約システムの導入費用が印紙税の額を超えてしまっては、節税の意味がありません。
電子契約システムの導入に当たっては、契約書原本の保管コストやペーパーコストのほか、システム導入費用の比較が重要になります。現在はクラウド型電子契約システムなど、導入しやすい電子契約システムもあるので、導入の際には十分な比較検討をお心がけください。
収入印紙の取り扱いに対する国税庁の見解まとめ
- 印紙税法で定められている課税文書の発行にかかる税金を印紙税、また印紙税を納めるための証票を収入印紙という
- 国税庁および政府では、電子契約によって交付された契約書は課税の対象外になるという見解がなされている
- 電子契約を導入することで、印紙税の非課税による節税およびコストカットが期待できる
現在ではほとんどの契約で電子契約が認められており、今後も対象となる契約書は増えていくことが予想されます。
印紙税の非課税にともなう節税メリットは決して少なくないので、早い段階でのシステム導入を検討してみると良いでしょう。