電子契約サービスを導入しようとする企業も増えています。しかし、今まで使ってきた契約文言を、そのまま電子契約書でも使っていいのかどうか、迷う方も多くなっています。
確かに、従来から用いてきた契約書のひな型の類いを、電子契約書に流用することができない場合もありますから、注意が必要です。
この記事では、紙の契約書を電子契約書に切り替える場合に、それに伴って書き換えるべき、契約条項や契約書式について解説し、電子契約書のひな型(テンプレート)の正確さが担保されている電子契約サービスについても紹介しています。
電子契約書と紙の契約書とで、文言に違いはあるのか
契約書である以上は、電子であろうと紙であろうと、果たすべき目的や機能は同じです。
よって、条項などの文言の記載内容は、ほとんどが共通しています。
たとえば、不動産賃貸の契約書であれば、目的となる不動産を住所などで特定し、賃料や契約期間を定め、賃借人の禁止事項などが列挙されています。場合によっては、更新時期に支払うべき更新料や、家賃額の増減請求、解約時の手続きなどが盛り込まれています。
こうした契約事項は、従来型の紙の契約書と、電子契約書とで、ほぼ同じ内容です。なぜなら、内容に違いを設ける必要がないからです。
ただし、電子契約書では、電子契約書であること自体を理由に、従来どおりの記載では都合が良いといえない文言が、一部存在しています。その部分は、電子契約の性質に合わせて適切に修正しなければなりません。
契約書のひな型(テンプレート)を利用する場合は、特に注意する必要があるのです。
契約書を電子化する際に変更・修正すべき点
契約条項で使われている文言の変更
電子契約書では、紙の書面や印鑑などを使いません。
電子署名を組み込んだデジタルデータによって契約当事者本人を認証し、その契約内容を記録したデータは、電子契約サービスの提供事業者が用意しているクラウドストレージ上に保管します。
よって、書面や署名捺印・記名押印を前提とした契約内容は、電子契約に合わせて書き換えなければなりません。
常套句の変更
たとえば、契約条項には次のような決まり文句(常套句)があります。
『甲と乙は、本契約成立の証として、本書2通を作成し、両者記名押印のうえ、各自1通を保有する』
まさに、書面としての契約書を、契約締結の事実と契約内容を示す証拠物件として機能させようとする文言です。
ただし、この文言は、電子契約書で使うことができません。なぜなら、「本書」「押印」など、紙の契約書や印鑑を想定した言葉が混ざっているからです。さらに言うならば、「2通」「1通」「保有」も、物体としての紙を前提とした文言といえるでしょう。
これらの言葉は、電子契約に合わせた表現に書き直します。
『甲と乙は、本契約の成立を証として、本書の電子契約書ファイルを作成し、それぞれ電子署名を施す』
「本書」を「本書の電子契約書ファイル」と変更しました。そして「記名押印」に該当する文言を「電子署名」に変えています。
電子契約書ファイルを、電子署名法などの表現に沿って「電磁的記録」と表現する場合もありますが、意味は同じです。
紙の契約書では、原本を2通作成し、各当事者が1通ずつ保管していました。ただ、これも電子契約書では当てはまりません。
現在主流となっている、電子契約サービス事業者が提供する「立会人型」の電子契約書では、クラウドサーバー上に原本(マスターデータ)が、一元的に保管されているからです。
この原本に、電子署名とタイムスタンプが施されていて、契約当事者本人が確かに電子署名を実施していることや、契約内容が第三者に書き換えられた事実がないことを裏付けています。
当事者は、電子契約書の文言をいつでも閲覧できますが、マスターデータを自社の端末に保管できるわけではありません。よって、「各自1通を保有する」の表現は削除すべきなのです。
なお、クラウド上に保管されている電子署名済みのマスターデータのみが電子契約書の原本であって、それ以外はすべて複製にすぎないことを明確にする目的で、念のため、次の文言を付け加えることがあります。
『なお、本契約においては、電子契約書ファイルのみを原本とし、同ファイルを印刷した文書は写しとする』
書面による意思表示の変更
たとえば、賃貸契約書であれば、又貸し(転貸)について定められている場合があります。
『第○条(転貸) 乙は、甲による事前の書面による承諾がないかぎり、本物件の全部または一部を第三者に転貸できない」
借主による無断転貸は、貸主に対する背任行為に当たります。そこで、転貸契約書や転貸承諾書を作成し、貸主が転貸に承諾している事実を誰にでもわかる文言で記録し、署名捺印をして保管しておく必要があります。
しかし、この承諾を、もしも書面ではなく、電子署名を施したデータによって行うのなら、従来どおりの表現では無理が生じます。よって、次のように書き換えなければなりません。
『第○条(転貸) 乙は、甲による事前の書面、または双方が合意した電磁的措置の方法による承諾がなければ、本物件の全部または一部を第三者に転貸することができない』
そのほか、書面による同意を条件として効果を生じさせる契約文言があれば、同じようにその文言を変更しなければなりません。
契約書の書式の変更
紙の契約書とは異なり、電子契約書では、契約当事者「甲」「乙」の住所を記載して署名する欄を、契約書の冒頭に置くことが多くなりました。
なぜなら、氏名記載欄の横に、印鑑を模した「印影イメージ」を置く場合に、大量の電子契約書を同時に一括で処理しやすくするためです。これを、パッチ処理といいます。
電子契約書には電子署名やタイムスタンプが施されていて、それが真正性を裏付けています。しかし、一見してわかりにくいため、契約成立のシンボルとして「印影イメージ」を加えているのです。
この印影イメージの座標位置を常に固定し、パッチ処理をしやすくするためには、従来の契約書のように末尾に住所氏名記載欄を置くのでなく、冒頭に置く書式としたほうが有効なのです。
つまり、電子契約書に必須の変更ではありません。もし、パッチ処理が不要であれば、この書式変更も不要なのです。
ひな型(テンプレート)の文言を活用する
以上のように、紙の契約書のひな型に書かれた文言は、電子契約書にそのまま流用することができません。ひな型の文言パターンを基本としながらも、部分的に変更しなければなりません。
近ごろでは、電子契約書に特化したひな型も増えてきています。
電子契約書でもひな型を使うことができれば、契約作業時間の大幅な短縮となり、労働生産性の向上にも繋がります。
また、文言が決まっていることにより、契約業務のミスを減らし、迅速かつ確実に電子契約書を作成できるのも、ひな型の大きなメリットです。
使用頻度が多い契約書は、ひな型を呼び出して必要な文言のみを記入すれば、すぐに実際の契約シーンで利用できます。
電子契約書のひな型の文言は、インターネット上から拾ってこないように注意しましょう。ほとんどの場合、弁護士など法律の専門家が監修しているかどうかが不明で、場合によっては契約トラブルにまで発展するおそれがあるからです。
よって、ひな型の文言は電子契約サービスの提供事業者が用意しているものを使うほうが安心できます。文言のパターンが充実したテンプレート集を用意している事業者も増えてきました。
ひな型(テンプレート)を利用できる、おすすめの電子契約システム
ほとんどの電子契約サービスで、契約条項のひな型が用意されていますが、特に定評があるのは、次の通りです。
クラウドサイン
弁護士ドットコム株式会社が、三井住友フィナンシャルグループとの合弁で運営している電子契約サービスです。弁護士が監修しているひな型ですので、その契約文言は安心して利用できるでしょう。
電子印鑑 GMOサイン
インターネット黎明期からオンライン事業に乗り出しているGMOグループが提供している電子契約システムです。この条項テンプレートの文言も弁護士が監修しています。
DocuSign(ドキュサイン)
電子契約サービス業界で世界一のシェアを誇る、外資系の電子契約システムです。
特に「DocuSign Gen for Salesforce」は、フォーマットを利用して即座に契約書を作ることが可能です。
NINJA SIGN
弁護士資格のある実業家が立ち上げた株式会社サイトビジットが運営している電子契約システムです。よって、NINJA SIGNのひな型の文言も安心して利用できるでしょう。有料プランであれば、ひな型を無制限に利用できます。