ペーパーレス・脱ハンコに向けた取り組みとして、電子契約サービスを導入する企業が増えています。
とは言え、まだ全て企業で導入されているわけではないため、電子契約未導入の相手方と契約を締結する際にはいくつかの問題も。
そこでこの記事では、電子契約の際に相手方へかかる負担の有無と、相手方からスムーズに同意を得るためのポイントを解説していきます。
双方が電子契約サービスを導入している場合に起こり得るトラブル・対処法なども紹介しているので、こちらもチェックしてみてください。
電子契約サービスの導入にあたって相手方にかかる負担とは
電子契約サービスを導入する際に課題として挙げられることが多いのが、相手方にかかる負担の解消法です。
まずは、どのような場合に相手方に負担がかかるのか、より負担をかけずに契約を締結するにはどうすれば良いのかといった点について詳しく見ていきましょう。
電子署名を必要とする場合(当事者型署名)
電子契約の締結方法には「当事者型署名」と「立会人型署名」の2種類があり、このうち相手方への負担が大きくなるのは「当事者型署名」のシステムを導入した場合です。
当事者型署名とは、契約締結の当事者がそれぞれ電子証明書を取得したうえで電子署名を付与する仕組みのことです。
電子証明書の付与によって本人証明が行われ、高い法的効力を持たせられる一方で、電子証明書の発行には数千円~数万円程度の費用負担が発生するというデメリットも。
相手方の電子署名も必要な場合、相手方にも電子証明書の発行にかかる手間・費用負担をかけることになるため、前もって同意を得ておく必要があるでしょう。
立会人型署名なら負担はほとんどない
もう1つの署名方式である「立会人型署名」の場合、当事者とは異なる第三者(電子契約サービス事業者)が電子署名を付与するため、自社・相手方ともに電子証明書を発行する必要がありません。
また「DocuSign」「クラウドサイン」「電子印鑑GMOサイン」といった大手の電子契約サービスでは、相手方が会員登録をしていなくても電子署名を行える仕組みとなっています。
これらのサービスでは、メールによって電子署名用のリンクが送信されます。
相手方はリンク先へアクセスするだけで内容確認・署名を行うことができるため、従来の書面契約と比べて非常に簡単なステップでの契約締結が可能です。
このことから、立会人型署名の電子契約サービスであれば、相手方に負担をかける心配はないと言えるでしょう。
相手方から電子契約の理解を得るために説明すべきポイント
電子契約を導入したとしても、相手方にかかる負担はそれほど大きくないことが分かりました。
とは言え、日本ではまだまだ印鑑を使用する習慣が根強く、電子契約への移行に消極的な企業も少なくありません。
こうした企業から電子契約の同意を得るためには、以下のような電子契約の魅力・メリットをしっかりと説明することが大切です。
電子契約には法的効力がある
相手方が電子契約の導入に難色を示す理由として、電子契約サービスへの不信感が挙げられます。
「電子文書で契約を証明できるのか」「捺印がなければ証拠として使えないのでは?」と疑問を持つ方も多く、こうした不安から電子化に踏み切れずにいる方も少なくないのです。
実際には、電子契約は「電子署名法」「IT書面一括法」「e-文書法」「電子帳簿保存法」といった法律でその法的効力が認められており、紙の契約書と同じ証拠力を持つことが明らかになっています。
具体的な法律の内容を踏まえつつ、電子契約は法的にも有効な手段であることを説明しましょう。
セキュリティに対する不安の解消
電子契約サービスのようにオンラインで使用するシステムに対して、万が一の場合のセキュリティ対策を心配する方も多いようです。
この場合は、電子契約サービスに組み込まれているセキュリティ対策の内容を説明しましょう。
セキュリティ対策の内容はサービスによって異なりますが、例えば世界シェアの8割を誇る「DocuSign」では、ISO/IEC 27001・SOC1・SOC2・FedRAMP・PCI DSSなどに準拠したサービスとして認定を受けています。
また電子データで管理することにより、契約書の紛失や破損・劣化などを防止でき、災害時のBCP対策としても有効です。
更に、書類作成や署名などの操作を誰が・いつ・どこで行ったのかという記録が全て残るため、社内のコンプライアンス強化になるということも説明すると良いでしょう。
相手方に期待できるメリット
電子契約サービスを導入すると、自社だけでなく相手方にも以下のようなメリットが期待できます。
- 書類の交付にかかる印紙税・通信費・人件費などのコスト削減
- 書面の印刷・捺印・発送・ファイリングといった業務が不要になり、業務効率化が図れる
- 契約締結までの時間を大幅にカットできる など
通常、契約書の交付には印紙税が課せられますが、電子契約の場合にはこれが非課税になるという見解が国税庁・政府から出されています。
印紙税の節税やその他のコスト削減ができる点は相手方にとっても大きなメリットと言えるので、しっかりと説明するようにしましょう。
システム導入後に想定される問題と対処方法
相手方が異なる電子契約サービスを導入しているケースや、最後まで電子契約を受け入れてもらえないケースなど、導入後にも様々なトラブルが想定されます。
ここからは、電子契約サービスの導入後に起こり得る問題とその対処方法について詳しく見ていきましょう。
自社と相手方で導入しているサービスが異なるケース
電子契約サービスには様々な種類があり、必ずしも相手方が同じサービスを導入しているとは限りません。
自社と相手方で異なる電子契約サービスを利用している場合は、状況に応じて以下の対応をとるようにしましょう。
立会人型署名の場合
立会人型署名の場合は電子署名を行わず、メール認証による電子サインで契約が完了します。
この場合は相手方の会員登録やログインを必要としないため、相手方に確認をとったうえで、契約書を送信する側の電子契約サービスを利用するのが一般的です。
また自社のみ電子署名を行う場合も同様のやり方で問題ありません。
当事者型署名の場合
双方の電子署名が必要な場合には、どちらかが相手方の電子契約サービスに合わせる必要があります。
どちらの電子契約サービスを利用するかは双方の力関係や契約内容によるため、相手方と相談して決めるようにしましょう。
電子契約・署名を拒否されるケース
電子契約サービスの導入を促しても、頑なに拒否する企業がないとは言えません。
こうした場合には、
紙の原本・電子契約のそれぞれで契約締結
電子契約に同意しない企業の意見として、「契約書は紙で保管しておきたい」というものが多く見受けられます。
そのため、2通作成するという手間はかかるものの、紙の契約書と電子契約書のそれぞれで契約締結を行うのが最もスムーズな方法です。
紙の原本で契約締結してコピーをPDF化
捺印した紙の契約書をPDFにして相手方に送り、相手方で印刷・捺印した契約書を再度PDFで返送してもらう方法です。
相手方は契約書を印刷した状態で残すことができ、自社では返送されたPDFをそのままデータ保管できるため、一見するとスムーズな方法のように見えます。
しかしPDFを印刷しただけの契約書は厳密にはコピーという扱いになり、万が一の場合に証拠として提出しても認められない可能性がある点に注意が必要です。
相手方の承諾がないと電子契約できない書類も
以下をはじめとする一部の契約書は、法律によって書面契約が義務付けられており、電子契約を結ぶことができません。
- 宅地建物売買等媒介契約
- 定期借地契約・定期建物賃貸借契約
- マンション管理業務委託契約
- 訪問販売等特定商取引における交付書面
- 金融商品クーリングオフ書面 など
こちらは法律で定められているものであるため、現時点では紙の契約書で契約締結を行うしか方法はないでしょう。
まとめ
- 立会人型署名の電子契約サービスであれば、相手方に負担をかけることなく電子契約を導入できる
- 負担がかからないとしても、電子契約を導入する際は相手方にその旨を伝え、理解を得る必要がある
- 相手方が異なるサービスを使っている場合や、紙の契約書が欲しいと言われた場合には臨機応変な対応も必要
相手方の理解を得ることができれば、電子契約をより便利に活用することができるでしょう。
電子契約サービスの導入は今後ますます広がっていくことが予想されるため、早めに導入・移行を検討してみてくださいね。