「電子契約サービスを導入したものの、相手方から導入を拒否された場合どうすれば?」
「拒否された場合の説明方法とは?」
と疑問に感じていませんか。
電子契約サービスの導入を提案したとしても取引先によっては導入を拒否されるケースがあります。拒否された場合には自社のみ電子契約サービスを利用する方法がとれますので柔軟に対応をしてください。
当記事では、電子契約サービスの導入を拒否された場合の対応例やそもそも拒否されないための説得内容までご紹介します。
電子契約サービスの導入を拒否される場合がある
昨今のリモートワークの推進により電子契約サービスの普及が進んだものの、一部の企業では電子契約を不安視、および、拒否し、従来通り書面契約を求められる場合があるようです。
拒否される理由は以下の通り大きく2つあります。
- 電子契約は手間やコストがかかる印象があるので拒否
- 電子契約が証拠として利用された判例が少ないので拒否
1つ目の理由については、システムの使い勝手による拒否ですので、立会人型の電子契約サービスを導入することである程度解消できます。
世界No1シェアのDocuSignなども立会人型ですが、相手方は受領したメールに記載の契約締結用URLをクリックして署名するのみですので手間やコストがかかることはありません。
2つめの理由については、印象による拒否ですので対応が難しいのが実情です。「東京地裁令和1年7月10日貸金返還等請求事件」のように実際の判例で電子契約が利用された事例はあるものの、まだまだ事例数が少ないです。
このような背景から、企業に所属の弁護士によって「理論上は電子契約でも民事訴訟法の真正性を満たし証拠として利用できるが、判例が少ないためリスクがある。したがって、念のため書面契約の方がよい」と判断されるケースが多いです。
こうした理由から電子契約サービスの導入が拒否されています。
拒否された場合の対応策
では、電子契約サービスの導入を拒否された場合、どのような対処方法を取れるのか以下では解説をしていきます。
対応策①:電子契約を提供し相手方に印刷してもらう
以下の流れで契約を締結することで、自社は電子契約、相手方は書面契約によって契約を締結できます。
- 電子契約サービスを導入して自社が電子契約を作成する。
- 電子署名が付与された電子契約を相手方に提供する。
- 相手方が提供された電子契約ファイルを2部印刷し、製本、押印をする。
- 相手方が押印済みの契約書を自社に郵送する。
片方のみ電子署名を付与しても法的には問題ない
上述のような方法をとれば、当社で発行した電子契約においては電子署名が付与されているので真正性を確保できます。また、相手方が発行した契約書についても押印がされますので同様に真正性の確保が可能です。
したがって、自社、相手方共に法的に問題なく契約成立させることができます。
相手方からの電子署名は実務上問題になりにくい
ここで気になるのが、実務上、上記のような契約締結方法が認められるかです。結論、多くの場合で上述のような契約締結用方法は認められるようです。
クラウドサインが公表している以下記事によれば、このような取引をしている企業は取引先全体の20%に上るようです。
事実、筆者の所属する会社ではこのパターンを用いているが、年間で見ると 新規契約全体の約20%がこの方法により締結されたもの である。仮に年間での契約締結件数が1,000件だとすると、200件がこのパターンで締結されたことになる。
では、なぜこのように多数の企業が上記のような取引を許容しているかというと、「自社発行分の電子署名の扱いについては社内規定の整備がないが、相手方からの電子署名を拒否する規程もない」が大枠の理由のようです。
つまり、自社からは電子署名を付与することはできないが、相手方からの電子署名を拒否する理由もないということでしょう。
対応策②:自社で電子契約を印刷し送付する
相手方からの要望に素直に従い、書面契約を相手方に送付する方法もあります。この場合、電子契約を相手方に送信し、署名をもらった後、改めて書面契約を相手方に送付するのです。
この方法であれば、書面契約が欲しい相手方のニーズと電子契約で管理したい自社のニーズを一挙に満たせられます。
この場合、契約書の末尾文言に以下のように記載しておくとよいでしょう。
「本契約の成立を証するため、本書の書面および電磁的記録を作成して各自記名押印および電子署名を施し、甲(取引先)が書面を、乙(当社)が電磁的記録を保管する。」
自社のみ電子契約を利用する場合の注意点
自社のみ電子契約を利用して相手方は書面契約を利用することは可能ですが、このような運用をする場合にいくつか注意点があります。
「想像していた契約書と違ったので、押印をして書面契約を再送してほしい」と言われる場合もありますので、注意点を確認したうえで運用をご検討ください。
相手方が電子署名をよくわからず受け入れてしまう場合がある
昨今の急速な電子契約サービスの普及によって、相手方が電子署名の概要をよく理解しないまま電子契約を導入してしまう場合があります。
結果、電子署名の意味合いや法的な効力がよくわからず、電子署名付の電子契約を相手方が受け取ることになります。この時、相手方は電子契約に不安を感じて記名押印付きの書面契約の再送、電子契約による契約締結の拒否を求めるのです。
このような事例への対応方法として、以下を記載した資料を相手方へ事前に送付することが考えられます。
- 片方の企業のみ電子署名、もう片方は書面契約とする運用が法的に問題ない理由
- 電子署名が付与された文書は改ざんができないこと
- 片方の企業のみが電子署名を付与する場合の運用の流れ
以上の3点を記載したうえで相手方に事前送付することで電子契約の利用拒否をある程度避けられます。
電子契約を受け取って印刷したものの、書面契約を再度要求される場合がある
電子署名付の電子契約を相手方に提供し、相手方で印刷した結果、誰によっていつ署名されたものか書面上ではわからない点に不安を感じる場合があります。
このケースの場合でも再度押印付きの書面契約の再提出、電子契約に契約締結の拒否を求められることがありますので注意が必要です。
この場合への対処方法として、各電子契約サービス事業者から発行される合意締結証明書を相手方に提供するするとよいです。合意締結証明書上には誰がいつ何に署名したかの記載がありますので、相手方の不安を取り除き、電子契約の拒否を回避できます。
そもそも相手方に電子契約を受け入れてもらうためには
そもそも、相手方が電子契約サービスを拒否しなければ、自社のみ電子契約サービスを利用するようなイレギュラー対応をせずに済みます。そこで以下では相手方に電子契約サービスを拒否されないための説明内容を紹介します。
電子契約は法的に有効であることを説明する
電子契約は法的に有効であるのか、不安に思い電子契約を拒否する企業がまだまだ多いようです。そこで、電子契約が法的に有効であり、係争時の証拠としても利用できる旨を以下を通じて説明してあげるとよいです。
そもそも、契約は民法522条2項の契約方式の自由によって、いかなる形式でも成立します。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
したがって、電子契約は法的に有効です。一方で、契約が成立することと、万が一の係争時に証拠として利用できるかは別問題ですので留意ください。係争時の証拠として利用するためには民事訴訟法228条1項にあるように真正性を満たす必要があります。
文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
そこで、電子契約ではどのように真正性を満たしているかというと、電子署名を付与することで真正性を満たしています。電子署名を付与することで真正性を確保できる旨は電子署名法3条に記載があります。
電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
以上から、電子契約は法的に有効で、かつ、係争時の証拠として利用できることがわかります。
電子契約導入により相手方にもメリットがあると説明する
電子契約サービスを導入することで自社のみならず、相手方にもメリットがある点を説明するとよいです。相手方のメリットとして例えば以下があります。
- 書面契約の作成・郵送・管理コストの削減などのコストメリット
- 取引のリードタイム短縮
- 法対応の簡易化 など
世界No1シェアのDocuSignを導入したソフトバンク株式会社では契約書1通あたり2,500円のコスト削減効果があったと公表しています。
この金額には印紙税の削減効果や書面契約の作成・郵送・管理コストの削減などの合計の削減金額が記載されていますが、相手方でも電子契約サービスの利用を前向きに進めていけば同様のコストメリットを得られると説得する材料になるでしょう。
また、電子契約サービスを利用すると契約締結用のURLが記載されたメールを相手方に送付するのみで契約締結ができますので、大幅に取引のリードタイムを短縮できます。この点も相手方にとっても大きなメリットです。
メリットを明確に遡及して、相手方の利用拒否を回避しましょう。
立会人型を利用すれば負担が少ない点を説明する
電子契約サービスを利用する時に、電子証明書の発行が必須であるため、コストと手間がかかる点をデメリットに感じて、電子契約を拒否する企業が多いようです。
電子契約サービスの立会人型を使用することで、契約締結用のURLが記載されたメールを相手方に送付するのみで契約締結ができますので、手間やコストをかけることなく電子契約を利用できることを説明するとよいです。
電子契約サービスの中には、相手方によるアカウント作成も不要で電子契約を利用できるものもありますので、相手方に与える負担は非常に小さいです。
また、立会人型の電子契約サービスを利用するとなると、電子契約の真正性を気にされる企業がいます。なぜなら、立会人型では利用者本人ではなく、電子契約サービス事業者が代わりに電子署名を付与するからです。
この点について、2020/7に総務省、法務省、経済産業省の3省連名で「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」が公表され政府見解が示されています。
結論、立会人型を利用したとしても電子契約の真正性は確保できるとのことですので、安心して利用ください。
まとめ 相手方に拒否されても一度は説明しよう
電子契約は法的に問題なく利用できる上に、係争時の証拠として利用されている判例も数は少ないですが存在します。したがって、電子契約を利用できないと過度に拒否するのはもはや漠然とした不安である点もありますので、丁寧な説明が求められます。
電子契約を拒否する企業への説明には、電子契約を導入した場合のメリット、電子契約の法的有効性や証拠能力、相手方の負担の少なさなどを説明してください。
基本的には拒否よりも導入したメリットが勝りますので、合理的に考えれば最初は拒否をしていても結果的に、電子契約は受け入れられるはずです。電子契約を拒否する相手方への丁寧な説明を通じて電子契約サービスを活用していきましょう!