電子契約導入によるメリットはリスクによるデメリットを上回るのか?
電子契約導入によるメリットはリスクによるデメリットを上回るのか?

電子契約を行なっていく上で考えられるリスク(危険性)とは

もし、御社の日常業務における契約書から、署名やハンコをなくし、電子契約の仕組みを導入するとしたら、いくつかメリットが思い浮かぶのではないでしょうか。

その一方で、まだ普及の途中である電子契約・電子署名を始めることによって、一定のリスクをともなう点も指摘されています。

この記事では、電子契約・電子署名を導入することによるメリットやリスクを網羅的に指摘しながら、そのリスクによる不利益をメリットが上回るために採るべき対策などを検討します。

目次

電子契約のメリット

電子契約のメリット

電子契約のシステムを採用したとき、紙の契約書に署名捺印する従来の場合と比べて、メリットになりうる点は次の通りです。

印鑑の管理コストの削減メリット

まず、電子契約の最もわかりやすいメリットとして、会社の印鑑(社印)を適切に管理する必要がなくなる点で、従業員が他のことに注力できる余裕を生み出すことができます。(但し、全ての文書や契約書について電子化できるわけではないので注意が必要。)

使わせてはいけない者に社印を使わせることで、何者かに文書が偽造され、会社に思わぬ損害を被らせるリスクがあるためです。

それで、社印を使える権限がある役員や従業員を限定し、それ以外の従業員が社印を用いるときには、日時を限定して用が済んだら確実に返却させる管理が求められます。しかし、これでは管理する側にもされる側にも「社印のことを気にして行動する時間や心理的負担」が生じます。

契約書への署名捺印(記名押印)をなくし、電子契約に統一することによって、その時間や負担をまるごと省略できるメリットがあるのです。

2020年から21年にかけて、新型コロナウイルス(covid-19)による感染拡大が問題となり、各社では自宅に待機してのリモートワークが普及していました。にもかかわらず、「契約書に社印を押さなければならない」理由だけで、社員がわざわざオフィスに出ていかざるをえない状況が全国の各地で起きていたのです。それでは非効率といえるだけでなく、従業員の健康をも危機にさらす結果となってしまいます。

契約書への電子署名を導入すれば、そのような本末転倒の出来事がなくなり、リモートワークがさらに推進されていくことも考えられます。リモートワークが普及すれば、出勤や退勤に関する一連の時間的コスト・経済的コストを削減できるメリットが生まれます。

契約締結にかかる時間の削減メリット

電子署名を導入すれば、契約書の印刷・製本・郵送などのコストもかかりますが、オンライン上で完結させれば、その手続きを省略でき、契約締結までにかかる時間や手間を減らすことができます

また、総務部や法務部が、社内の各部署で契約締結の手続きがどれぐらい進んでいるのかを、システム上で一元管理することもできるため、進捗の確認や把握にかかる手間も省くことができます。

社内の稟議で重役数人の印鑑が必要な書類も、オンライン上で一連のチェックが完結できますから、契約締結の場面以外の日常業務でも業務効率化を図ることができるでしょう。

契約書管理コストの削減メリット

また、締結済みの契約書を保管しておくスペースなども確保しておかなければなりません。取引先と契約書を交わす頻度が多い会社にとっては、それも決して小さくない負担、ないしリスクとなりえます。

ここで、電子契約を導入することにより、オフィスの省スペース化を実現でき、会社の固定費を一部カットできる効果を期待できます。

印紙税支払いの回避メリット

さらに、電子署名の契約にすれば、契約書に収入印紙を貼る必要がなくなります。印紙税の削減につながり、それだけでもコストカットすることが可能となります。

印紙税は、契約書の目的物の金額や種類に応じた額面の収入印紙を貼らせることによって、その背後にある公務の財源にする狙いがあるといわれます。

ただ、2021年の時点では電子契約書に印紙税が課されないとしても、税収の確保を目的として法改正が行われ、将来的に課税対象となることもあります。その点で、印紙税回避のメリットは限定的になりえますので注意してください。

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専門家からのコメント
弁護士・中小企業診断士 杉本拓也
電子契約の最大のメリットは、契約締結事務作業を効率化できることです。この他にも、印紙税の節約や、紙の契約書の保管コストの削減などの効果が期待できます。
契約書の締結の機会が多い事業者にとっては、特にメリットが大きいと思います。

電子契約のリスク・デメリット

電子契約のリスク・デメリット

印鑑を用いる紙の契約書にはない、電子署名を用いる電子契約書の抱えるリスク、ないしデメリットは次の通りです。

情報セキュリティに関するリスク

オンライン上でやりとりされる電子契約の手続きでは、何者かが不正アクセスを行って、契約書の内容や、電子署名の名義を書き換えたりするハッキングを受けるリスクがあります。知名度の高い大企業では、特に愉快犯のような悪意あるプログラマーによってハッキングの標的として狙われるリスクもあります。

印鑑を押す紙の契約書であれば、不正な手口で偽造・変造を行える者の範囲は、契約当事者か、せいぜい社印を使う権限を持っている社内の人物に限られます。しかし、電子署名の導入によって、世間一般の無関係な第三者にまで広がるリスクを一定程度、抱えることになるのです。

情報セキュリティとは、情報の「機密性」「完全性」「可用性」の3要素が維持されている状態と定義されているところ、契約書への電子署名では、その3要素が侵害されるリスクを伴います。

機密性リスク

閲覧権限のない者へ漏洩させないよう、会社などが保管すべき個人情報や営業機密などを保護する「機密性」が、不正アクセスによって侵害されるリスクです。

完全性リスク

会社が保管している重要な情報が、不正アクセスによって書き換えられてしまうリスクです。

可用性リスク

会社が保管している情報が、破損・紛失・流出などが原因で、会社にとって必要なときにアクセスできなくなるリスクを指します。

契約相手の理解を求めるべきデメリット・リスク

契約相手となる企業も、電子署名・電子契約を積極的に導入しているとは限りません。必ずしも伝統的・保守的な大企業の経営者でなくても、電子契約の導入に二の足を踏む人は決して少なくありません。

下手をすると、電子契約・電子署名に対し、契約相手の企業内で理解を求めて、許諾を取る手続きを踏むだけで、紙の契約書に印鑑を押す手続きよりもかえって手間がかかるおそれがあります。

どうしても相手方の理解を得られず、電子契約書とともに紙の契約書の保管もしなければならなくなれば、二度手間となってしまいます。

社内での理解を浸透させなければならないデメリット・リスク

契約書の契約手続きを行う頻度が社内で最も多いのは、営業部門である場合がほとんどでしょう。いくら、総務部や法務部が電子契約を導入したくても、「今までの契約プロセスを変えたくない」と、営業部から反発を受ければ、紙の契約書のままです。

逆に、営業部が電子契約を望んだとしても、総務部等のバックオフィス部門から理解を得られなければ、やはり導入は頓挫してしまいます。

電子化できない契約書があるデメリット・リスク

「事業用定期借地権」「存続期間50年以上の定期借地権」「更新のない定期建物賃貸借」は、公証人に依頼して公正証書のかたちで契約書を作成しなければならないと法的に定められています。よって電子契約は認められません。

また、農地の賃貸借契約も、書面による契約書を作成しなければなりません。物件の価値を大きく左右しかねない重要事項の説明書も、書面で提示しなければならないのです。

そのため、特に不動産業界では、従来の契約書と電子契約サービスを当分の間、併用しなければならないでしょう。

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専門家からのコメント
弁護士・中小企業診断士 杉本拓也
電子契約のセキュリティリスクを適切に把握して利用することが重要です。また、一定の類型の契約は電子契約とすることができないことも理解しておく必要があります。

メリットが、リスクやデメリットを上回るためには?

メリットが、リスクやデメリットを上回るためには?

まず、電子契約の情報セキュリティリスクを克服するためには、署名権限者を限定して内部で適切にIDやパスワードを管理する必要があります。

ハッキングなどによって不正に電子契約書が書き換えられれば、バージョンやタイムスタンプも書き換わっている可能性が高いのです。そのため、その痕跡を常に追う態勢を整えられれば、情報セキュリティリスクや一連のデメリットを乗り越えて電子契約を活用できるようになります。

確かに人手はかかりますが、コンピュータによる情報コントロールと併用できる分、社印を管理する手間暇に比べれば業務負担は軽いはずです。

また、電子契約の性能を担保するため、すでに普及していて世間の評判も上々の、知名度が高い電子契約サービスを利用することも重要です。

たとえ導入費用が安くても、ほとんど知られていないサービスを業務内でわざわざ導入するぐらいなら、よく知られたサービスを利用するほうが無難でリスクが少なく、社内での理解も得られやすいです。

よって、変更履歴に異変がないかを定期的に点検するなどして、リスク回避に努めなければなりません。

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専門家からのコメント
弁護士・中小企業診断士 杉本拓也
まず内部で適切に署名権限等を管理する体制を策定することが重要です。事故は内部の管理体制の不備を原因として起きることが多いです。また、定評のある電子契約事業者を選択することも重要でしょう。
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