「電子契約に関係する法律の改正状況を知りたい」
と感じていませんか。
2021年9月にデジタル改革関連法が施行され、不動産業など一部契約書の電子契約が認められたため、電子契約サービスの活用にポジティブな影響がありました。
一方で、2022年1月に税法の電子帳簿保存法が法改正される予定であり、電子取引に該当する電子契約は取引情報の電子保存が義務化されるため注意が必要でしょう。
当記事では、電子契約関連の法改正のポイントを詳細に解説していきます。デジタル改革関連法の概要・民間企業が確認すべきポイントや、電子帳簿保存法の概要・法改正ポイントを紹介しますのでご参考にください。
電子契約とは
電子契約とは契約業務をオンライン上で完結できるものを指します。従来の書面契約を電子契約に置き換えることで、以下のメリットがあります。
- 印紙税や契約書の保管・管理・監査コストの削減
- 取引のリードタイムの削減
- 特定の契約書の検索に係る業務の効率化
- セキュリティの強化 など
したがって、基本的に書面業務を電子契約に置き換えることによるメリット・コストパフォーマンスは高いため、昨今注目を集めています。
法律の側面でも、書面の電子化を促す法改正が電子署名法や電子帳簿保存法、デジタル改革関連法案など相次いで施行されているため、今後ますますメリットが受けやすい環境が整備されるでしょう。
デジタル改革関連法
電子契約を活用するにあたり、2021年9月に施行されたデジタル改革関連法案の内容は一読の価値があります。以下では概要および法改正のポイントを紹介します。
デジタル改革関連法案とは
デジタル改革関連法案とは、社会課題の解決するためにデータ活用を促進する点を目的とします。また、特定の1つの法律を指さず、以下6つの法律の総称です。
- デジタル社会形成基本法(※IT基本法は廃止)
- デジタル庁設置法
- デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律
- 公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律
- 預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律
- 地方公共団体情報システムの標準化に関する法律
この中で電子契約を活用するユーザーが確認すべき法律は「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」です。
デジタル改革関連法案により不動産業界の電子契約が可能に
デジタル改革関連法案「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」の中で、非常に多くの法改正が盛り込まれていますが、特に注目すべき法改正のポイントは、「押印・書面の交付等を求める手続きの見直し」に関する点です。
「押印・書面の交付等を求める手続きの見直し」の中で、以下法改正により、主に不動産業において電子契約が可能な契約書の範囲が増えています。
- 借地借家法
- 宅地建物取引業法
- マンションの管理の適正化の推進に関する法律
借地借家法
定期借地権の設定や定期建物賃貸借における契約に係る書面、事前説明書の電子化が法改正により有効であると認められるため、定期借地、定期借家の契約の書面について電子契約が認められます。
(定期借地権) 第二十二条(略) 2 前項前段の特約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第三十八条第二項及び第三十九条第三項において同じ。)によってされたときは、その特約は、書面によってされたものとみなして、 前項後段の規定を適用する。
(定期建物賃貸借) 第三十八条(略) 2 前項の規定による建物の賃貸借の契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その契約は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。 3 第一項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。 4 建物の賃貸人は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、建物の賃借人の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって法務省令で定めるものをいう。)により提供することができる。この場合において、当該建物の賃貸人は、当該書面を交付したものとみなす。 以下略
ただし、借地借家法の法改正は「施行までに一定の準備期間が必要なもの」に含まれるため、施行日を公布日から最大1年程度遅らされるため、ただちに解禁ではないため注意が必要です。
宅地建物取引業法
宅地建物取引業法では重要事項説明書の電子契約化が認められています。
8 宅地建物取引業者は、第一項から第三項までの規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、第一項に規定する宅地建物取引業者の相手方等、第二項に規定する宅地若しくは建物の割賦販売の相手方又は第三項に規定する売買の相手方の承諾を得て、宅地建物取引士に、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であつて第五項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供させることができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該宅地建物取引士に当該書面を交付させたものとみなし、同項の規定は、適用しない。
9 宅地建物取引業者は、第六項の規定により読み替えて適用する第一項又は第二項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、第六項の規定により読み替えて適用する第一項に規定する宅地建物取引業者の相手方等である宅地建物取引業者又は第六項の規定により読み替えて適用する第二項に規定する宅地若しくは建物の割賦販売の相手方である宅地建物取引業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であつて第七項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面を交付したものとみなし、同項の規定は、適用しない。
上記の法改正を含め、宅地建物取引業法の法改正にともない以下の契約書の電子契約が認められます。
- 売買の媒介契約書(宅建業法34条)
- 賃売の重要事項説明書(宅建業法35条)
- 賃貸借契約書(宅建業法37条)
- 売買契約書(宅建業法37条)
ただし、宅地建物取引業法の法改正は「施行までに一定の準備期間が必要なもの」に含まれるため、施行日を公布日から最大1年程度遅らされるため、ただちに解禁ではないため注意が必要です。
マンションの管理の適正化の推進に関する法律
マンションの管理の適正化の推進に関する法改正により、マンション委託管理契約書の電子契約が可能です。
(重要事項の説明等)
第七十二条(略)
2~4(略)
5 マンション管理業者は、第一項から第三項までの規定により交付すべき書面を作成するときは、管理業務主任者をして、当該書面に記名させなければならない。
電子帳簿保存法改正(2022年1月施行予定)
税法上、電子契約は電子取引に該当するため、電子帳簿保存法の電子取引要件に準じた保存が必要です。したがって、電子契約を利用する場合は、2022年1月に予定されている電子帳簿保存法の法改正についても一読の価値があります。
電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法とは、電子的に帳簿や書類を保存してもよいと認めた法律です。1998年に施行されてから、時代の背景に合わせてたびたび法改正されてきました。このたび2022年1月にも法改正が予定されています。保存対象とする書類の区分に合わせて確認が必要です。
保存する対象書類によって以下の4つの区分に分類できます。
- 国税関係帳簿の区分
- 国税関係書類の区分
- スキャナ保存の区分
- 電子取引の区分
2022年1月の法改正で上記すべての区分で法改正が予定されています。全体的に要件の緩和・廃止が目立つものの、電子取引区分では紙保存措置廃止が見込まれているため、多く企業が法改正への対応に迫られている状況です。
紙保存措置廃止とは電子取引に該当する文書をすべて電子文書として保存しなければいけない旨の要件です。仮に該当文書を電子保存していない旨を税務調査上で指摘された場合、青色申告の承認の取り消しリスクがあるため注意が必要でしょう。
電子契約は電子取引要件に準拠して保存が必要
電子契約は電子取引の区分に該当するため、電子取引要件に求められる以下の要件を満たした保存をする責任があります。
書類の備え付け
システムを利用する場合、システムの説明書を準備する必要があります。ただし、自社開発システムを利用する場合のみに適用される要件である点に留意が必要です。クラウドシステムであれば問題なく対応できるでしょう。
見読可能装置の備え付け
検索結果などを明瞭かつ速やかに、整然として表示できる必要があります。したがって、ディスプレイやパソコンなどを準備する必要があります。
可視性の確保
2022年1月以降は主要3項目(取引先名、取引年月日、取引金額)で検索できる必要があります。ただし、税務調査時に税務官のダウンロードの求めに応じる必要がありますので注意が必要です。
真実性の確保
次のいずれかの方法で真実性を確保する必要があります。
- タイムスタンプを付与する(付与された文書を受領する)
- 訂正削除履歴を確保できるシステムを利用する(そもそも訂正削除ができないシステムを利用する)
- 訂正削除に関する事務処理規定を整備する
また、法改正により、タイムスタンプの付与に関して、2022年1月以降は業務サイクル後速やかに(最大2か月+7営業日以内)付与すればよくなりました。ただし、業務サイクル後速やかに付与するためには、事務処理規定上に業務サイクルの定義などを規定する必要がある点に注意が必要です。
税法に準拠し最低7年間の保存が必要
電子契約は税法上、決算申告に関する書類に該当するため、最低7年間(繰越欠損金がある場合は10年)の保管が必要です。
法改正に適応した電子契約サービスを選ぶ
上述の通り、電子契約は各種遵守すべき法律がいくつかあるため、法改正に適合しているかどうか違いを見極めて電子契約サービスを選ぶ必要があります。したがって、電子契約サービスの選定時に法改正への対応有無を選定軸にいれることをおすすめします。
ただし、上記で紹介した電子帳簿保存法電子取引要件への対応は、国内取引をしている場合に適応される法律ですので留意ください。
また、必ずしも電子契約サービス上で電子帳簿保存法に対応している必要はなく、他の自社システム上に当該帳票を移し替えて対応できる点も注意が必要でしょう。
まとめ
電子契約サービスを導入にあたり、関連する法律は昨今目まぐるしく法改正をしています。背景には国策として民間事業のデジタル化を推進している点があるため、今後も法改正の波は続くでしょう。
法改正をした法律の中には、電子帳簿保存法など、デジタル化への対応で不適合である場合、青色申告の承認取り消しリスクがあると明確にアナウンスしている法律もあるため、引き続き注意深く法改正の流れをウォッチしていく必要があります。
とはいえ、電子契約サービスを導入するメリットは非常に大きいですので、前向きに電子契約サービスの導入を検討いただけることを推奨しています。
法改正の動向をみつつ、電子契約サービスを導入して書面の契約業務を効率化していきましょう!