様々な業界で電子化が進む中、不動産賃貸取引においては書面での契約締結が義務化されている契約書が多く、なかなか電子契約が導入できないという状況が続いてきました。
しかし、2021年5月に成立した「デジタル改革関連法」にて、不動産賃貸取引における電子契約が全面的に解禁される見込みとなったのです。
この記事では、不動産賃貸取引をとりまく現在の法規制と、法改正に伴う電子化のメリットについて解説していきます。
不動産賃貸取引における電子契約の現状
不動産に関する契約については、宅地建物取引業法や借地借家法などの法律で書面化が義務付けられており、電子契約を結ぶことができない状態にあります。
2017年にIT重説が解禁となったものの完全電子化には至らず、社会実験による検証が続けられてきました。
まずは、不動産賃貸取引に関する現状の法規制について詳しく見ていきましょう。
宅地建物取引業法による規制
宅地建物取引業法第35条には、不動産の売買・貸借などを行う際の条件として以下のような記載があります。
宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。
この書面を「重要事項説明書」といい、一般的に「35条書面」などと呼ばれています。
つまり、不動産の売買や貸借などを行う際は、宅地建物取引士による書面での重要事項説明書の交付および説明が必須であるということです。
明確に「書面」と記載されていることから、重要事項説明書は電子化が認められない文書であると言えます。
また、同法第37条には、賃貸借契約を結ぶ際の条件として以下のような記載があります。
宅地建物取引業者は、宅地又は建物の貸借に関し、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
この書面を「不動産賃貸借契約書」といい、一般的に「37条書面」などと呼ばれています。
こちらについても、賃貸借契約書を書面で交付することが明記されており、電子契約の利用は認められないと言えるでしょう。
借地借家法による規制
借地借家法第38条には、期間の定めがある賃貸契約を結ぶ際の条件として以下のような記載があります。
期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。
こちらは「定期建物賃貸借」と呼ばれ、一定期間の賃貸借契約の後、契約更新を行わずに建物を返還しなければならないという内容を定めたものです。
文中に「公正証書による等書面」という記載があることから、同じく書面での契約締結が必須となっています。
法律の改正で不動産賃貸取引の電子契約が全面解禁に
これまでは上記の規制によって電子契約を導入できなかった不動産賃貸取引ですが、今後の法改正によって全面的にオンライン化が認められる見込みとなっています。
続いて、不動産賃貸取引の電子契約が解禁されるタイミングと、電子契約の導入で期待されるメリットについて詳しく見ていきましょう。
電子契約が解禁となるタイミング
2021年5月に「デジタル改革関連法」が成立し、9月1日から施行となりました。
なお宅地建物取引業法にかかる法改正は交付から1年以内の施行とされており、現時点では未実施です。
とは言え、公布日が2021年5月19日であることから、遅くとも2022年5月18日までには不動産賃貸取引の電子契約が全面解禁となる予定です。
法改正が実施されたあとは、重要事項説明書や賃貸借契約書を電子化することが認められるようになります。
また2017年に解禁されたIT重説についても、これまでは事前に書面を用意する必要がありましたが、今後は電子上のみで対応できるようになる見込みです。
電子契約の導入で期待できるメリット
不動産賃貸取引を電子上で行えるようになることで、以下のようなメリットが期待されます。
業務効率化・契約締結までの時間短縮
電子契約を利用できることで、契約締結に関連する業務の効率化・時間短縮を行うことが可能です。
これまでは契約書の印刷・製本・捺印といった作業が必要でしたが、電子契約の場合は不要となります。
また書面契約の場合、契約締結にあたって家主(仲介業者)と契約者が直接会って手続きを行ったり、必要な書類を郵送したりしなければなりませんでした。
しかし電子契約が可能となれば、契約手続きを全てオンライン上で行えるようになり、移動や郵送の手間を省くことができるため、双方にとってメリットのある仕組みと言えるでしょう。
コスト削減
電子契約の利用が認められれば、契約締結にかかっていたコストの削減効果も見込めるようになるでしょう。
従来の書面契約では、賃貸借契約書の印刷や郵送にコストが発生していましたが、電子契約の場合は全てオンライン上で完結するためこれらのコストがかかりません。
また電子契約の場合は印紙税が不要となるため、不動産業界のように高額な取引が多い企業にとっては非常にメリットのある仕組みとなっています。
契約書の管理が容易になる
書面契約の場合、専用のキャビネットなどを用意して書類を保管する必要があり、スペース確保の問題などで頭を悩ませる方も少なくありませんでした。
一方電子契約であれば、全ての契約情報をデータで保管できるため、書類を管理するためのスペースが不要となります。
またクラウド上にデータを保管しておけば、災害に見舞われた場合でも契約書を紛失するといったリスクがなく安心です。
まとめ
- 現在は宅地建物取引業法などの規制により、不動産賃貸取引を電子上で行うことができない
- 2021年5月の法改正で不動産賃貸取引の電子化が全面解禁される見込みとなり、現在は施行待ちの状態
- 不動産賃貸取引を電子契約で行えるようになれば、業務効率化やコスト削減などのメリットが期待できる
重要性の高さから電子化が難しいとされてきた不動産賃貸取引ですが、ついに電子契約が認められることとなりました。
今後も各契約書の電子化は進んでいくことが予想されるため、いざという時に慌てなくて済むよう、早い段階から導入に向けた準備を進めていきましょう。