「電子契約って税法上、印刷保管って必要なの?」
「電子契約を印刷した場合、印紙税は課税される?」
と疑問に感じていませんか。
電子契約は多くの場合で国税関係書類以外の書類に該当しますので、電子帳簿保存法電子取引要件に基づいた保存が必要です。2021/12の税制大綱上で紙保存措置に対して2年間の宥恕措置が設けられたこともあり、2023/12までであれば、電子取引要件を満たせていない場合は紙保存が必要でしょう。
また、電子契約を印刷した場合、印刷した契約書を契約の原本とするか否かにより印紙税の納付が必要かどうか変わりますので、確認が必要です。
当記事では、電子契約の印刷保管の有無、電子契約に求められる電子取引要件の概要、印刷された電子契約に対する印紙税納付の要否までご紹介します。
印刷保管が必要かは場合による
電子契約を印刷保管が必要か否かについては、印刷の方法によるという回答になります。以下では場合別に印刷保管の必要性を解説します。
そもそも電子契約はデータで保存が必要
まず、電子契約は国税関係以外の書類かつ電子取引に該当しますので、電子帳簿保存法電子取引要件を満たした保存が必要です。したがって、電子取引要件を満たして保存ができるのであれば、印刷保管は不要でしょう。
電子上で電子帳簿保存法の要件を満たせない場合に印刷が必要
一方で、電子帳簿保存法電子取引要件を満たせない場合は、2023/12までであれば印刷保管が必要であると考えられます。
なぜなら、上述した通り、基本は電子上での保存が必要ですが、2021/12に国税庁により公表された税制大綱上で、電子帳簿保存法の電子取引要件に対する紙保存措置に対して2年間の宥恕措置が設けられているためです。したがって、電子上で電子取引要件を満たせないのであれば印刷して保管してください。
とはいえ、電子取引要件に該当する文書は電子上で保存するのが基本です。宥恕措置の影響で2023/12までは紙保存が認められていますが、2024/1以降は認められず、国税調査時に要件を満たした保存をしていない点が指摘された場合、青色申告の承認取り消しリスクなどがあるため注意が必要です。
求められる電子帳簿保存法要件とは
電子契約に求められる電子帳簿保存法の要件について解説します。
そもそも電子帳簿保存法とは
そもそも電子帳簿保存法とは、電子的に帳簿や書類を保存してもよいと認めた法律です。1998年に施行されて以降、世の中のペーパレス化の流れにこたえるように改正を繰り返してきた歴史があります。電子帳簿保存法は保存する文書の属性により以下4つの要件に分けられます。
- 国税関係帳簿の保存要件
- 国税関係書類の保存要件
- スキャナ保存の保存要件(書面文書をスキャニングして電子化する際に求められる要件。ただし決算会計書類は除く。)
- 電子取引の保存要件(国税関係書類以外の書類を対象にする。例 メールに添付された請求書、注文書など)
電子契約は電子取引要件を満たす必要がある
上記で紹介した電子帳簿保存法の要件の内、電子契約は電子取引の保存要件を満たした保存が求められます。電子取引要件は以下の通りです。
- 電子計算機処理システムの概要を記載した文書の備付け
- 見読可能装置の備付け等
- 検索機能の確保
- 真実性の確保
上記の詳細な要件(根拠)については、国税庁が公表している電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問11を参照ください。上記の内、多くの顧客が頭を悩ませているのが真実性の確保の要件です。真実性の確保については以下いずれかの内、自社の要件に適したものを選択して実施する必要があります。
- タイムスタンプの付与(または、付与済みの文書の受領)
- 訂正削除履歴が確保されたシステムへの保管(または、そもそも訂正削除ができないシステムへの保管)
- 訂正削除への事務処理規定の作成
つまり、導入に高額な費用が掛かる傾向にあるタイムスタンプの導入は必須ではなく、費用をかけずに事務処理規定で対応も可能ですので、ご留意ください。
電子契約を印刷した場合、印紙税の納付は必要?
上記のように電子契約を印刷保管する場合もあるかと思います。では、印刷保管した電子契約について、印紙税は課税されるのでしょうか。以下では印刷保管した電子契約の印紙税課税について解説します。
契約締結を電子上で実施した場合は不要
電子契約を利用して電子上で契約を締結した場合、印紙税は非課税です。そもそも印紙税は以下の通り課税文書に課税されます。
文書(略)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある
課税文書とは以下の通り、書面をさします。したがって、電子契約は書面を作成しませんので印紙税は非課税です。
第44条 法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。
実際に国税庁より、電子契約に対する印紙税の課税について以下のような公表がされています。
印紙税法に規定する課税文書の「作成」とは、印紙税法基本通達第44条により「単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう」ものとされ、課税文書の「作成の時」とは、相手方に交付する目的で作成される課税文書については、当該交付の時であるとされている。 上記規定に鑑みれば、本注文請書は、申込みに対する応諾文書であり、契約の成立を証するために作成されるものである。しかしながら、注文請書の調製行為を行ったとしても、注文請書の現物の交付がなされない以上、たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならないから、印紙税の課税原因は発生しないものと考える。
上記の公表を見る限りでも、電子契約は印紙税は非課税であることは自明といえるでしょう。
印刷後の契約書を原本として契約締結した場合は必要
では、一方で電子帳簿保存法の電子取引要件を満たせなかった場合などに、電子契約を印刷保管する場合は、印紙税は課税されるのでしょうか。結論、印刷した電子契約を取引の原本(課税文書)とするか否かにより、印紙税の課税有無は変わります。
印刷した電子契約を原本としない場合、印紙税は非課税であり、不要
相手方と契約締結を結んだ後に電子契約を印刷して保管する場合、原本は電子契約そのものであると考えられるため、印刷した電子契約は控えと考えられます。したがって、印紙税は非課税です。
あくまで課税の対象は、課税文書です。課税文書とは以下の国税庁によるQA「写、副本、謄本等と表示された契約書の取扱い」を見る限り、契約を取り交わす原本として利用するか否かが重視されます。
Q 一つの契約について契約書を正副2通作った場合には、そのうち正本だけに印紙を貼ればよいのですか。それとも正副の2通とも印紙を貼らなければならないのですか。また、副本としないで写しとした場合はどうなりますか。
A 単なる控えとするための写、副本、謄本等は、原則として課税文書にはなりませんが、写、副本、謄本等であっても、契約当事者の双方又は相手方の署名押印があるなど、契約の成立を証明する目的で作成されたことが文書上明らかである場合には、課税文書になります。
つまり、電子上で契約を締結していれば、すでに契約締結の一連のフローは完了していると考えられるので、電子契約を印刷しても複製と考えられるのです。
印刷した電子契約を原本とする場合は印紙税の課税は必要
一方で、契約締結前に電子契約を印刷して、その印刷した契約書を利用して契約を締結した場合には、その契約書が原本(課税文書)と考えられるので印紙税の課税対象になります。
理由は、国税庁によるQA「写、副本、謄本等と表示された契約書の取扱い」で紹介した通りで、電子契約を印刷した場合でも、契約の成立を証明する目的で作成されたと考えられるため、印刷した契約書が課税文書と考えられるからです。
まとめ 印紙税を削減可能な電子契約を導入して契約業務を効率化しよう!
電子契約は基本的には電子帳簿保存法電子取引要件位基づいた保存が必要です。とはいえ、2023/12までは電子取引要件を満たさずとも、印刷して保存することで税法上の要件を満たすことができてしまいます。
ただし、2024/1以降、紙保存措置は認められなくなりますので早期事前に、電子上で要件を満たした保存ができるように対応をしていく必要があるでしょう。
また、電子契約を利用しているからといって、電子契約を印刷しても必ずしも非課税になるわけではない点に留意ください。印刷後の契約を原本(課税文書)とするかによって考え方が変わります。
以上のように、基本的には電子契約は印刷して保管が不要なうえ、印紙税は非課税です。印紙税の削減のほか、取引のリードタイム短縮などメリットがありますので電子契約サービスの導入がおすすめです。電子契約サービスを導入して契約業務を効率化していきましょう!