電子契約に押印は不要!電子署名と電子印鑑(印影)の法的効力と違い

電子契約に押印が不要である理由や法的効力を紹介

昨今のテレワーク推進に伴って契約業務も電子化が進み、電子契約を導入する企業が増加しています。

紙の契約書の場合、署名+印鑑での契約が商習慣として一般的でしたが、これから電子契約の導入を検討している方にとっては、これまで紙の契約書で行っていたように電子契約でも印鑑の押印が必要になるのかどうかは確認しておきたいポイントでしょう。

結論からお伝えすると、電子契約に押印は不要。少なくとも電子署名があれば契約書として有効となります。

このページでは、電子契約に押印が不要である理由について解説した後、電子署名と電子印鑑の法的効力と違い、電子契約に押印するデメリット・リスクについても説明いたします。

目次

電子契約に押印が不要である理由とは

電子契約では、電子署名法第3条にて、本人によって電子署名が行われた場合には真正に成立したものと推定するとされています。

電子署名法3条
電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
引用元:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC0000000102

上記の電子署名法の条文を見るとわかりますが、電子契約ファイルに印鑑(印影)を付与することは求められていません

つまり、電子契約において重要なのは「電子署名」であって、電子契約に印影(の画像)を埋め込む必要は法的にも全くありません。したがって、電子契約に印鑑(印影)は不要だと言えます。

電子署名と電子印鑑の法的効力

電子署名とは、電子契約に付与することで当該データにおける本人性や非改ざん性を証明するものです。書面契約での押印や直筆サインと同じような役割を持ちます。

電子署名には暗号技術が施されていて、本人が契約書を作成したことを法的に証明する事が可能。加えて、タイムスタンプを付与することで時刻を記載できるため、契約書が作成された時間やそれ以降に内容が改ざんされていないことも証明できます。

電子印鑑とは、PDFファイルなどの電子文書へパソコンやスマートフォンなどから捺印可能な印鑑データのことをいいます。

電子印鑑には2タイプあり、1つは単純に印影を画像に変換したもの、もう1つは使用者が誰かなどの識別情報も含めてデータ化された印鑑です。

前者は見積書や請求書などに、背景を透過させた印鑑の画像を貼り付けるなどして利用します。無料で印影画像を作成できるサービスも出ていますが、複製しやすいため無断使用されるリスクが伴います。印影に識別情報が保存されている後者であれば、より信頼性が高まり、社外文書にも使用しやすいといえるでしょう。

「認印・実印……印鑑の種類と効力の違い」でご説明しましたが、印鑑はただ形式的に捺しているわけではなく、本人確認や文書の完全性を証明する意味があります。こういった法的効力の部分に、無料電子印鑑と有料電子印鑑の違いがあります。

無料の電子印鑑と有料の電子印鑑 法的効力の違い

印影のスキャンや、フリーの電子印鑑作成ソフトで作った無料の電子印鑑の効力は認印と同等です。社会的に「たぶんその本人が捺したであろうという判断」は変わりません。ただし、誰にでも複製できてしまうこと、インターネットにアクセスできればどこにいても押印できてしまうことを考えると、実物の認印よりもなりすまして押印できる可能性が高くなります。そういったセキュリティの脆弱性から、法的な効力は見込めないと理解しておきましょう。

一方、専用のサービスを利用して作る有料の電子印鑑の効力は実印に近いといえるでしょう。専用サービスでは、印影の画像データに誰が捺したかの使用者情報や、いつ捺したか分かるタイムスタンプ情報を付与することができます。利用できる識別情報はサービスによって違いますが、識別情報があることで、その本人が捺印したことの証明がしやすくなり、法的な信頼度が高まります。

実物の印鑑でも安価で手軽に入手できる認印と、高価だが法的な効力の強い実印があったように、電子印鑑でも無料と有料でセキュリティや法的効力に差があるので、それぞれのメリットとデメリットを理解して使い分けていくことが重要です。

電子契約に押印するデメリット・リスク

電子契約では印鑑(印影)がなくても法的効力は変わりません。

上述したように、電子署名法によって、電子契約では電子署名があることで本人の意思による契約だと推定します。そのため、電子署名さえあれば証拠として用いることができます。

ただし、電子契約はデジタルデータなので、偽造や改ざんをされる可能性があります。偽造や改ざんを防ぐためには、電子署名だけでは不十分です。

そのため、電子契約では電子署名と併せてタイムスタンプを付与することが必要となります。タイムスタンプとは電子契約の非改ざん性と存在性を証明し、電子署名と併用することで法的効力を担保する仕組みです。

一般的な電子契約サービスは、電子署名やタイムスタンプなどの機能を利用することができることが多いです。

契約後に紛争になって訴訟に発展した場合、電子契約の法的有効性が争われる可能性はゼロではありません。電子契約サービスを選ぶ際には、電子署名やタイムスタンプなどの機能が利用できる電子契約サービスを選び、証拠能力を担保するようにすべきです。

電子契約に印鑑(印影)は不要だとお伝えしましたが、可視性などの観点から印影の画像を電子ファイルに付与する場合もあるかと思います。

その際、実際に会社で使っている社印(角印)や代表者印(会社実印)など正式な印鑑をスキャンして取り込んだ印影(の画像ファイル)をアップロードして埋め込むことは避けるべきです。

正式な印鑑をスキャンして取り込んだ印影(の画像ファイル)をアップロードして埋め込むことによるリスクとして、物理的な印鑑を偽造・複製される危険性があります。

上述したように、電子契約において印鑑(印影)は法的有効性にまったく関係がありません。

そのため、少なくとも、会社実印など紙の契約書で実際に用いている印鑑(印影)のスキャン画像をアップロードして埋め込むことリスクがあるので避けたほうがよいでしょう。

そもそも押印の必要性とは

紙の契約書の場合、署名・捺印を求められますよね。このように署名や押印が必要となるのは、契約を結ぶ際に、口約束だと証拠にならないからです。そのため「署名+印鑑」での契約は、商習慣としても一般的な行為となっています。

しかし、実は印鑑(印影)自体には法的効力はありません。たしかに、契約書に印鑑(印影)があるということは証拠として重要ですが、法的効力を発揮するために必要不可欠な要素があります。

印鑑が法的効力を持つためには「本人の意思によって押印されたか」という点が争点となります。契約書を証拠として提出する場合には、押印された印鑑が本人の意思によるものかどうかの証明が必要であると民事訴訟法228条で言及されています。

民事訴訟法228条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。(2〜3項省略)
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
引用元:https://elaws.e-gov.go.jp/document?law_unique_id=408AC0000000109_20201001_502AC0000000022

このように、民事訴訟法228条では、契約書などの文書に当事者の署名または押印がある場合は、本人の意思でその契約を締結したと推定できるとしています。

しかし、手書きの署名ならまだしも、押印の場合、誰が印鑑を押しても同じ印影となりますよね。印影だけでは本当に本人の意思で押印されたものかまでは判断することができないはずです。

では、「本人の意思で押印された」ということを、どうすれば証明できるのでしょうか?どのような場合に本人性を立証できるかについて、過去に裁判所が以下のように述べています。

昭和39(オ)71 求償債権等請求 昭和39年5月12日 最高裁判所 判決 棄却(民集 第18巻4号597頁)
【裁判要旨】私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によつて顕出されたものであるときは、反証のないかぎり、該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定するのを相当とするから、民訴法第三二六条により、該文書が真正に成立したものと推定すべきである。
引用元:https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53145

つまり、(本人が押印したかどうかわからない場合でも)契約書などの書類に本人の印鑑による押印があるということは、本人の意思によって契約が成立したものと事実上推定してよいということです。

契約書などの文書に押印をする人は、通常、その文書の内容が確定した後に、その内容を認識した上で押印をするという経験則が存在するとされています。そのため、押印がされた文書については、文書が真正に成立していることが推定されることになります。

  1. 文書に本人の印影があるということは本人の意思によって押印されたと推定される
  2. 民事訴訟法228条4項の規定によってその文書は本人の意思によって締結されたと法律上推定される

上記のように1つ目の推定を前提に、民事訴訟法228条4項における推定効が得られることを「二段の推定」と言います。

この二段の推定を基に「印鑑を押した契約書」への信頼が形成され、紙の契約書には印鑑が必要という考えが浸透しているのです。

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