自治体での電子契約サービス導入が加速!電子署名の仕組みと法改正の背景
自治体での電子契約サービス導入が加速!電子署名の仕組みと法改正の背景

地方自治法の改正が行われ、自治体でも一般的な電子契約サービスを導入可能に

2021年1月29日付で地方自治法施行規則の一部が改正・即日施行され、自治体における電子契約サービスの利用規制が大幅に緩和されました。

この記事では、地方自治法施行規則の概要と、法改正で利用拡大が予想される電子契約サービスの仕組みを解説しています。

実際に電子契約サービスを導入している自治体の事例なども紹介しているので、合わせてチェックしてみてください。

目次

2021年より地方自治法施行規則が大幅緩和

2021年より地方自治法施行規則が大幅緩和

2021年1月29日付で施行された地方自治法施行規則では、主に自治体での電子契約サービス利用に関する規制の緩和が行われました。

まずは、これまでの地方自治法の概要と、法改正で緩和されたポイントについて詳しく見ていきましょう。

これまでの地方自治法の概要

これまでの地方自治法では、自治体と民間の間で取り交わされる契約に電子署名を用いる場合、総務省令で定める電子証明書の発行が必須とされていました。

詳しい地方自治法および施行規則の内容は以下の通りです。

地方自治法第234条5項
普通地方公共団体が契約につき契約書又は契約内容を記録した電磁的記録を作成する場合においては、当該普通地方公共団体の長又はその委任を受けた者が契約の相手方とともに、契約書に記名押印し、又は契約内容を記録した電磁的記録に当該普通地方公共団体の長若しくはその委任を受けた者及び契約の相手方の作成に係るものであることを示すために講ずる措置であって、当該電磁的記録が改変されているかどうかを確認することができる等これらの者の作成に係るものであることを確実に示すことができるものとして総務省令で定めるものを講じなければ、当該契約は、確定しないものとする。

地方自治法施行規則第12条の4の2
地方自治法第234条第5項の総務省令で定めるものは、総務省関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律施行規則(平成15年総務省令第48号)第2条第2項第1号に規定する電子署名とする。

また総務省で定める電子署名および電子証明書の規定は以下の通りです。

総務省関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律施行規則第2条2項
この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1)電子署名 電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(平成十四年法律第百五十三号)第二条第一項又は電子署名及び認証業務に関する法律(平成十二年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子署名をいう。
(2)電子証明書 次に掲げるもの(行政機関等が情報通信技術活用法第六条第一項に規定する行政機関等の使用に係る電子計算機から認証できるものに限る。)をいう。
イ 電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律第三条第一項に規定する署名用電子証明書
ロ 電子署名及び認証業務に関する法律第八条に規定する認定認証事業者が作成した電子証明書(電子署名及び認証業務に関する法律施行規則(平成十三年総務省・法務省・経済産業省令第二号)第四条第一号に規定する電子証明書をいう。)
ハ 商業登記法(昭和三十八年法律第百二十五号)第十二条の二第一項及び第三項の規定に基づき登記官が作成した電子証明書

電子証明書の制限が普及を阻んでいた

前述した地方自治法および施行規則により、自治体では一般的な電子契約サービスを利用することができなかったため、電子署名の普及が大きく遅れていました。

また自治体で電子署名を用いる場合、取引相手となる民間事業者側でも電子証明書の発行が必要になるという点もネックでした。

厳格な本人確認のもとで発行される電子証明書は安全性が高く、取引の公正さを示すことのできる仕組みですが、発行には数千円~数万円の費用がかかります。

そこで、電子証明書の発行を必要としない一般的な電子契約サービスを、自治体でも利用できるようにして欲しいという要望が東京都・茨城県からなされました。

これを受け、総務省は電子署名に関する規制を緩和する運びとなったのです。

法改正でより多くの電子契約サービスが利用可能

今回の法改正では、地方自治法施行規則第12条の4の2第2項が削除され、特別な電子証明書を用意しなくても電子契約を締結できるようになりました

これにより、後述する電子署名法第2条1項の要件を満たすものであれば、以下のような電子契約サービスを自治体でも利用できるということです。

  • クラウド技術を用いた立会人型(事業者型・クラウド型)の電子署名
  • 公的個人認証サービス(マイナンバー)に基づく当事者型の電子署名

電子署名法第2条1項では、電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって、次の2つの要件のいずれにも該当するものを電子署名と定義します。

  • 電子署名が本人によって作成されたことを証明するもの(本人性)
  • 電子署名が改ざんされていないことを証明するもの(非改ざん性)

自治体でも利用できるようになった電子契約サービスとは

自治体でも利用できるようになった電子契約サービスとは

自治体でも電子契約サービスの導入が可能になったことで、より手軽に電子署名を活用できるようになりました。

続いて、一般的な電子契約サービスの仕組みと、種類ごとの特徴・メリットについて詳しく見ていきましょう。

電子契約の基本的な仕組み

電子契約サービスでは、「公開鍵暗号方式」の技術を用いた電子署名が採用されています。

この公開鍵暗号技術を構成する要素は以下の通り。

公開鍵暗号 文章を暗号化するための「秘密鍵」と、文章を復号するための「公開鍵」の2つの鍵をペアとして扱う暗号化技術のこと。
公開鍵暗号基盤(PKI) 電子証明書を発行する制度やセキュリティ基盤のこと。
ハッシュ関数 電子文書をハッシュ値にして返す関数のこと。書類の改ざん・偽装を検知するための技術。

また公開鍵暗号技術によって電子署名を行うときの基本的な流れは以下の通りです。

  1. A社が電子文書を作成し、ハッシュ関数を用いて圧縮する
  2. 認証局へ電子契約の届け出を行い、秘密鍵と公開鍵の発行を受ける
  3. 秘密鍵を使って文書を暗号化する
  4. 電子文書に署名をつけてB社に送る
  5. B社は公開鍵を使って暗号化されたハッシュ値を復号する
  6. ハッシュ関数を用いて電子文書のハッシュ値を作成する
  7. 複合したハッシュ値と作成したハッシュ値を比較し、相違がないことを確認する

当事者型署名と立会人型署名

電子契約サービスには、「当事者型署名」と「立会人型署名」の2種類があります。

当事者型署名は契約の当事者が電子証明書を取得したうえで契約を締結する仕組みのことで、契約する際は自治体と民間事業者の双方で電子証明書の用意が必要です。

なりすましのリスクがゼロに近いというメリットがある一方、従来の電子署名と同様にコストや手間がかかるというデメリットもあります。

また立会人型署名とは、当事者とは異なる第三者が電子署名を付与し、契約締結を行う仕組みのことです。

電子契約サービスを介して電子署名を行うため、サービスの事業者が実質の「立会人」となります。

こちらは自治体および民間事業者側で電子証明書を用意する必要がなく、コストをかけずに電子署名を完了できる点がメリットです。

実際に電子契約サービスを導入している自治体

実際に電子契約サービスを導入している自治体

民間事業者においては手軽な立会人型署名のサービスを導入している企業が多く、自治体でも同様の動きがみられると予想されます。

実際に立会人型署名の電子契約サービスを導入した自治体として、新潟県三条市があります。

三条市ではGMOグローバルサインHDが運営する「電子印鑑GMOサイン」が導入されました。

これにより、従来であれば書類の印刷・郵送・押印などで数日以上を要していた契約締結業務をわずか数分程度で完了できるようになり、大幅な業務効率化を実現

紙代・印刷代などのコスト削減効果も得られ、行政サービスの向上に時間や費用を回せるようになることが期待できます。

また茨城県でも立会人型署名による電子契約サービス「クラウドサイン」の導入が予定されています。

クラウドサインは弁護士ドットコムが運営する、国内トップシェアの電子契約サービスです。

このように、今後も電子契約サービスを導入する自治体が増えていけば、「脱ハンコ」の実現もより近づいてくることでしょう。

まとめ

  • 従来の地方自治法では、自治体は総務省が定める特別な電子証明書でなければ電子署名を行うことができなかった
  • 法規制の緩和により、自治体でも一般的な電子契約サービスの導入が認められるようになった
  • 茨城県や新潟県三条市など一部の自治体では、すでに電子契約サービスを用いた電子署名の取り組みが進められている

電子契約サービスは、自治体がより利便性の高い公共サービスを提供するための効果的なツールです。

全国の自治体へ普及するにはまだ時間を要しますが、「脱ハンコ」に向けた動きは着実に進んでいるといえるでしょう。

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