「雇用契約書や労働条件通知書は電子契約化可能?」
「雇用契約書や労働条件通知書を電子契約化する場合の注意点は?」
と疑問に感じていませんか。
雇用契約書や労働条件通知書は電子契約化できます。ただし、電子契約化する場合には従業員から事前に了承を得る、電子帳簿保存法に対応して保存する必要がある場合があるなど、いくつか注意点があります。
当記事では、そもそも雇用契約や労働契約とは何か、雇用契約書や労働条件通知書を電子契約化しても問題ない理由、雇用契約書などを電子契約化する場合の注意点までご紹介します。
そもそも雇用契約・労働契約とは
雇用契約と労働契約は似て非なるものです。まず契約の違いから解説します。
雇用契約とは
雇用契約とは民法623条に記載の通り、従業員へ労働に対する報酬を支払う関係にあることを示す契約です。
第六百二十三条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
ここでいう「報酬」とは金銭に限定していない点に留意が必要でしょう。
労働契約とは
一方で、労働契約とは労働契約法6条に記載の通り、従業員へ労働の対価として賃金、つまり金銭を支払いますよ、と示す契約になっています。
第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
雇用契約とは労働に対する対価に対する考え方の点で異なっているといえます。とはいえ、些末な違いはあれど、労働契約と雇用契約をイコールで考えて問題ないというのが法律上の取り扱いになっているのが実情のようです。
ただし、雇用契約は雇用主と従業員を対等な立場として扱うスタンスをとっているため、労働者に対して実務上で不利な条文が含まれています。
このような労働者の不利益を解消すべく設けられているのが労働契約法であり、労働基準法ですので、覚えておくとよいです。
雇用契約書・労働条件通知書は電子契約化可能
従業員を雇用した場合に作成することの多い雇用契約書や労働条件通知書はオンライン上で電子契約化可能です。以下では電子契約化可能な理由を関連法交えて解説します。
雇用契約書はそもそも交付が必須ではない
そもそも契約は民法522条2項にある契約方式の自由によって、いかなる形式でも成立します。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
とはいえ、契約の中には法的に契約後、契約書面を残すことをもとめる契約種が存在するのも事実です。しかし、労働契約法4条を確認すると、雇用契約の際には必ずしも雇用契約書として書面を残す必要がない旨がわかります。
第四条 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
2 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。
したがって、雇用契約書は民法522条2項の契約方式の自由によって、電子契約で締結しても問題ないと判断がつくのです。
労働条件通知書は交付が必須
一方で労働条件通知書の交付は必須です。労働基準法15条1項を参照すると以下の記載があり、雇用主は従業員に対して、賃金などの労働条件を示さなければなりません。この労働条件の通知を一般的に労働条件通知書と呼んでいます。
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
また、同施行規則5条を参照すると以下の通り、書面又は電子によって交付すればよいと判断がつきます。
法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
一 ファクシミリを利用してする送信の方法
二 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)
雇用契約書・労働条件通知書は真正性の確保が必要
上述の民法522条のようにいかなる形式でも契約は成立します。しかし、締結した契約を万が一の訴訟時に証拠として利用できるかは別問題であるので注意が必要です。
雇用契約書などを訴訟時に証拠として利用するためには民事訴訟法228条1項にあるように真正性を確保する必要があります。
文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
特に雇用契約書や労働条件通知書は、企業が従業員と締結する契約書の中でもとりわけ紛争が生じやすい契約書です。したがって、締結した雇用契約書や労働条件通知書の証拠力(真正性)を確保する必要があるのです。
では、雇用契約書や労働条件通知書を電子契約化した場合にどのような方法で真正性を確保するかというと、電子署名を付与することで真正性を確保します。雇用契約書などに電子署名を付与することで真正性を確保できる旨が電子署名法3条に記載があります。
電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
ここでいう電子署名とは、電子的なサインであれば何でもいいかというとそうではありません。電子署名法2条に記載されているような要件を満たす必要があるのです。
第二条 この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。
つまり、以下の要件を満たした電子署名を付与する必要があります。
- 電子署名が本人の意思によって署名されたことが証明できること(本人性)
- 電子署名後に改ざんされていないことが証明できること(非改ざん性)
以上のように雇用契約書や労働条件通知書を電子契約化する場合には電子署名を付与することで、雇用契約書などを係争時に証拠として書面契約と同様に利用ができるようになります。
実際に、東京地裁令和1年7月10日貸金返還等請求事件など、係争時に電子契約が証拠として提出され、その真正性が推定された事例がいくつかありますので、電子契約に電子署名を付与することで証拠として利用ができるようになるのは事実といえるでしょう。
立会人型電子契約サービスを利用しても真正性の確保は可能
電子契約サービスには以下の2タイプが存在します。
- 当事者型
- 立会人型
この中で立会人型において利用者自身は電子証明書を発行せず、事業者が利用者に代わってクラウド上で電子署名を付与するタイプの電子契約サービスです。一方で、上述した電子署名法2条にあるように電子署名は本人性の要件を満たす必要があります。
この時、立会人型は本人性の要件を満たすのか、疑問に思う方も多いのではないかと思います。
この疑問に対して、2020/9に総務省、法務省、経済産業省3省により「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」が公表されています。
この公表によれば、立会人型電子契約サービスの利用であっても、固有性が満たされるのであれば問題なく本人性、および、真正性は満たせられるとしています。
したがって、電子契約サービスの中では一般的な立会人型の電子契約サービスを利用して雇用契約書や労働条件通知書を電子契約化したとしても、問題がないと判断ができるでしょう。
電子契約サービスを利用して電子契約化がおすすめ
雇用契約書や労働条件通知書を電子契約化するのであれば、電子契約サービスの利用がおすすめです。以下では電子契約サービスを利用するメリットをご紹介します。
契約書1通あたり2,500円のコスト削減を見込める場合がある
雇用契約書や労働条件通知書などについて電子契約サービスを利用して電子契約化することで以下のコストメリットがあります。
- 印紙税削減
- 雇用契約書などの書面作成・郵送・管理コストの削減
- セキュリティ、監査コストの削減 など
世界No1シェアのDocuSignを導入したソフトバンク株式会社では契約書1通あたり2,500円のコスト削減効果があったと公表しています。
この事例からもわかる通り、雇用契約書など現存の書面契約を電子契約化することによるコストメリットは大きいといえるでしょう。
3週程度かかっていた業務を即日に短縮できる場合がある
雇用契約書や労働条件通知書を素早く締結することで、従業員を滞りなく確保するのも経営上重要です。しかし、雇用契約書上の文言修正や郵送に手間取っていると契約締結まで2-3週程度かかってしまう場合もあります。
電子契約サービスを利用すれば契約締結用のURLが記載されたメールを相手方に送付するのみで契約締結を完了できますので、契約締結完了までのリードタイム短縮を期待できるでしょう。
雇用契約書・労働条件通知書を電子化する場合の注意点2つ
雇用契約書や労働条件通知書を電子契約化するメリットは大きい一方で、電子契約化する際に注意が必要なポイントがあります。
電子帳簿保存法電子取引要件を満たした保存が必要な場合がある
電子契約サービスを利用して、システム上でやり取りされる雇用契約書は所轄の税務署の判断により、税法上の取引情報と判断され、電子帳簿保存法に電子取引要件を満たして保存する必要がある場合があります。
従業員との雇用契約書は任意で締結されるものであり、取引に関連して授受する文書であると考えにくいことから、基本的には税法上の取引情報ではないと考えられます。
しかし、所轄の税務署によっては雇用契約書を取引情報として考え、国税調査時などに提出を求める場合が散見されるようですので、雇用契約書の扱いについて所轄税務署への確認が必要になるでしょう。
もし、電子帳簿保存法の要件を満たしていない旨が国税調査時などで指摘された場合、青色申告の承認取り消しなどのリスクがありますので注意が必要です。
とはいえ、電子帳簿保存法については、2021/12に公表された宥恕(ゆうじょ)措置の影響で遅くても2023/12までに対応すればよいこととなっていますので、計画的に対応を進めていくとよいです。
従業員からの希望を残す必要がある
労働条件通知書を電子契約化するためには、事前に従業員から同意をもらう必要があります。口頭での同意でももちろん構いませんが、万が一の係争に備えて、証拠として合意情報を残しておくのがおすすめです。
例えば、雇用契約書などを交わす際に以下のような一文を契約書上の文言として追記するとよいかもしれません。
- 私は本契約について電子メール等による交付を希望し、受領しました
まとめ 契約業務を効率化しよう!
雇用契約書や労働条件通知書は電子契約化できます。ただし、雇用契約書などを電子契約化する場合には従業員から事前に了承を得る必要がある、所轄税務署の判断によっては電子帳簿保存法の要件を満たした保存が必要になるなど注意点がありますので留意ください。
注意点があるものの、基本的には雇用契約書などは電子契約化したほうがメリットは大きいです。雇用契約書などの電子契約化を契機に契約業務の効率化を進めていきましょう!