「建設業法上、建設請負工事契約に電子契約は利用できる?」
「建設業法とグレーゾーン解消制度との関連って?」
と疑問に感じていませんか。
2001年に施行された建設業法19条の改正で建設請負工事契約の電子化は可能です。また、2020年に実施された建設業法へのグレーゾーン解消制度への回答により、立会人型電子契約サービスを利用したとしても、ガイドライン上、問題ないことがわかっています。
当記事では、建設業法上、建設請負工事の契約を電子契約化可能な理由や電子契約化可能になった背景、建設業法上電子契約化するために必要な要件とグレーゾーン解消制度による影響までをご紹介します。
建設請負工事の契約で電子契約の利用が可能
冒頭でご紹介した通り、建設請負工事契約に対して電子契約を利用して締結できます。しかし、2000年以前、建設請負工事契約は原則書面での契約締結が必要でした。
なぜなら、同契約は性質的に口頭による契約締結であるとトラブルに発展する可能性が高いと考えられていたからです。当時は電子契約の技術・システムが十分に進んでいなかったことから、書面による契約締結が最も正確性が高い方法と認識されていた点が背景にあります。
一方で時代が進み、電子契約を利用することでシステム上、非改ざん性や本人性などを担保できるようになったことで、建設業法の見直しが2001年に実施され、建設請負工事契約の電子化が可能になっています。
また、2021/9にはデジタル改革関連法案が施行され、そのなかで建設業法の一部が改正されています。この改正によりさらに建設業法上で電子化可能な国税関係書類の幅が広がっていることから、法務担当者は確認が必要でしょう。
建設業法が改正されるまでの経緯
建設請負工事契約が電子契約化可能な旨は建設業法に記載がされています。以下では建設業法とはそもそもどのような法律なのか、改正されるにいたった経緯をご紹介します。
建設業法とは
建設業法とは1949年に施行された法律であり、29種の業種が建設工事の完成を請け負う場合に適用される法律です。「公共の福祉の増進」を目的に同法は施行されており、建設業に携わる人々の資質向上や建設業の健全な発展を意図しています。
かつて請負契約は書面の交付のみ認められていた
2000年以前における建設業法では、建設請負工事における請負契約の締結を書面のみに限定していました。なぜなら、かつては電子契約の技術が十分に進んでおらず実務に活用できる水準ではなかったからです。
一方で、昨今では急速な技術な進歩によって契約書の非改ざん性や本人性を担保した状態で契約を締結できるようになったため、書面ではなく電子契約による建設請負工事契約の電子契約化に向けて法整備が進むことになります。
2001年に建設業法19条が改正され、電子契約が可能に
建設業法は日本国内において大きな時代の変化がある場合に、改正される場合が多いです。例えば、行動経済成長があった1955年以降に建設業者の登録要件の強化や、紛争処理に関する手続きの整備など、常に時代の要請に応じた改正を実施してきました。
2001年にもまた、時代の要請に応じて、IT書面一括法が施行され、その中で書面契約を義務付けていた50種の法律を改正する旨が公表されました。この中に建設業法も含まれており、同年から建設請負工事契約の電子契約化が可能になっています。
2001年の建設業法の改正では、それまでは存在しなかった建設業法19条3項が新規で追加されています。
3 建設工事の請負契約の当事者は、前二項の規定による措置に代えて、政令で定めるところにより、当該契約の相手方の承諾を得て、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて、当該各項の規定による措置に準ずるものとして国土交通省令で定めるものを講ずることができる。この場合において、当該国土交通省令で定める措置を講じた者は、当該各項の規定による措置を講じたものとみなす。
つまり、この改正内容を咀嚼すると
- 元請負人と下請負人の双方の合意がある場合、
- 電子契約を締結ができる
と解釈できます。
2021年にデジタル改革関連法案で建設業法がさらに改正
また、建設業法は2021年に施行されたデジタル改革関連法案中でも改正が施行されています。この中で、建設業法20条3項が新設され、見積書の電子化が可能になると公表されています。
3 建設業者は、前項の規定による見積書の交付に代えて、政令で定めるところにより、建設工事の注文者の承諾を得て、当該見積書に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該建設業者は、当該見積書を交付したものとみなす。
この改正によって、建設業法に関わる見積書の電子メールによるやり取りやクラウドシステム上からのダウンロードが可能になるため、建設業がさらに効率化されます。ただし、事前に注文者からの承諾を得る必要がある点には留意ください。
以上のように建設業法は改正が繰り返されてきている経緯があるのです。
建設業法第19条で電子契約に求められる要件とは
2001年に改正された建設業法19条3項により、建設請負工事契約を電子化するための法的要件が定められています。
求められる3つの要件
法的要件は大きく3つあります。
1.書面の交付に代えることのできる電磁的措置(省令第13条)
コンピュータ・ネットワーク利用の措置と電子記録媒体利用の措置のいづれかを利用できるとしています。
2.電磁的措置の種類および内容に係る相手方の事前の承認(政令第5条)
建設請負工事契約を締結する相手方に対して、事前に電磁的措置の種類を提示したうえで、電子契約をする旨について事前合意・事前承諾を得る必要があります。
3.電磁的措置の技術的基準(省令第13条)
以下の技術的基準を満たすような電磁的措置を取る必要があります。
- 相手方が契約を書面出力できること(見読性の確保)
- 電子契約上の契約内容が改変されていないか確認できること(原本性の確保)
グレーゾーン解消制度により立会人型でも有効に
上記の2001年に改正され追加された法的要件に加えて、2020年には建設業法施行規則13条が改正され、新たな法的要件がガイドラインに追加されています。追加された要件は以下の通りです。
三 当該契約の相手方が本人であることを確認することができる措置を講じていること
つまり、電子契約の利用者の本人性を担保してくださいという措置です。この文章のみをみると利用者自身に電子証明書の発行を求める当事者型電子契約サービスの利用を推奨しているようにも読み取れます。
そこで、同年に照会者がグレーゾーン解消制度を利用して、「本人しか使用しない者として自己申告したメールアドレスをあらかじめメールサーバに登録する」仕様の電子契約システム、つまり立会人型電子契約サービスが適法であるか確認しています。
結果、本人性の確認要件に対して、国土交通省からは以下のような回答が示されています。
③契約当事者による本人確認措置を講じた上で公開鍵暗号方式による電子署名の手続きが行われることで、契約当事者による契約であることを確認できると考えられること
つまり、利用者同士が本人確認を実施したうえで、クラウドシステム上で電子契約を実施するのであれば十分に本人性を担保できると認めています。したがって、立会人型電子契約サービスを利用したとしても、建設請負工事契約を満たすための要件は十分に満たせられます。
建設請負工事契約を電子化するメリット
建設業法上、建設請負工事契約を電子契約で締結するのは問題ないことがわかりました。では、電子契約を利用して契約を締結するとどのような点にメリットがあるのかご紹介します。
印紙税の削減などコスト削減が可能
電子契約サービスを利用して契約締結をすると以下のコストメリットがあります。
- 印紙税の削減
- 書面契約の作成・郵送・管理コストの削減
- 監査コストの削減 など
世界No1シェアのDocuSignを導入したソフトバンク株式会社では契約書面1通あたり2,500円のコスト削減効果があったと公表しています。この事例からもわかる通り、電子契約サービスの導入によるコスト削減効果は非常に大きいです。
特に建設業のような1つの契約あたりで大きな金額を扱う業種の場合、削減できる印紙税、収入印紙の額も大きくなりますので、コスト削減効果を十分に引き出せます。
取引のリードタイム短縮を期待できる
2021/10に郵便法が改正され、普通郵便の最短配送日が翌々日と取引のリードタイム長期化が懸念されています。建設業においても取引のリードタイム短縮は望まれている点でしょう。
この点、電子契約サービスを導入すると相手方に契約締結用のURLが記載されたメールを送信するのみで、契約締結を完了できますので取引のリードタイム短縮を期待できます。
また、電子契約サービス上には契約書テンプレートの登録、顧客別のステータス管理、一括送信機能など、既存の契約業務を効率化する機能が多数搭載されていますので、取引のリードタイムを短縮しつつ、契約業務にかかる人的工数を削減できる点も大きなメリットです。
法対応が容易
建設請負工事契約は税法上、国税関係書類に該当します。したがって、各種税法に基づいた保存が必要です。もちろん、電子契約は電子契約サービスを導入しなくても、既にお持ちであろうExcelなどでも作成ができますが、この法対応が1つの課題となります。
例えば、電子契約を相手方に送付すると、それは電子取引に該当しますので、電子帳簿保存法電子取引要件を満たした保存が必要です。この時、求められる要件はタイムスタンプの付与や主要三項目(取引年月日、取引先名、取引金額)での検索などです。
Excelなどのツールで電子契約を作成した場合、上述のようなタイムスタンプ付与などが難しいため、法対応に苦慮するのは目に見えています。
この点、電子契約サービスを導入するとシステム上でタイムスタンプ付与、検索項目の付与などを簡単に実現ができますので、法対応を容易にできる点がメリットです。
また、法人税法上などで建設請負工事契約の長期保存が求められていますが、システム上でも長期保存ができますので、この点も管理コストを抑え、検索性を上げる意味で電子契約サービスが優れている点といえます。
まとめ 建設業法上、建設請負工事契約の電子化は可能
建設業法上、建設請負工事契約の電子化は可能です。ただし、建設業法上で求められる法的要件を満たして電子契約を作成する必要がありますので注意ください。
グレーゾーン解消制度でも回答があった通り、立会人型電子契約サービスを利用することで十分に建設業法の要件を満たした電子契約を作成し、保管ができます。
また電子契約サービスを利用すれば、建設業法の要件をみたすだけでなく、印紙税の削減などのコスト削減効果などを見込めますので導入がおすすめです。
ぜひ建設業法を満たした電子契約サービスを導入して、契約業務の効率化を推進してください。