「片方のみ電子契約を利用する方法を取る場合、印紙税は非課税になる?」
と疑問に感じていませんか。
印紙税の課税対象は”紙”であるため、電子契約を利用する場合、印紙税は非課税になります。もし、自社片方のみ電子契約を利用し、相手方は書面契約で対応するような場合であっても、電子契約を利用する側は非課税になる点に留意ください。
当記事では、電子契約を利用すると印紙税が非課税になる理由、片方のみが電子契約を利用するときの注意点までをご紹介します。
電子契約を利用していれば印紙税は非課税になる
電子契約を利用する場合、印紙税は非課税です。なぜ非課税なのか順を追って説明をします。
印紙税の課税対象は紙
そもそも、印紙税とは契約書などの課税文書に対して課税される国税です。
印紙税では、課税文書を作成する企業の胆税力(税金を納付する能力)に期待しているため、経済取引に伴って作成される文書に対して印紙税を課税しているのです。
課税文書は印紙税法別表1にあるように20種類あります。いずれの課税文書にしても、紙を想定している点がポイントです。以下の印紙税法44条を参照すると、課税文書とは”紙”を想定していることがわかります。
第44条 法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。
したがって、電子契約は電磁的記録であり、紙ではないので印紙税は非課税であると考えられているのです。
電子契約を利用する場合、印紙税は非課税
実際に国会答弁や国税庁からの公表をみても、電子契約は印紙税が非課税である旨が確認できます。
以下は小泉元首相による国会答弁の一部です。
~(中略)、 電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。
以上は第162回国会答弁上での発言ですが、明確に電子契約は印紙税が非課税であると発言しています。
また、以下は国税庁がコミットメントライン契約について公表した内容の一部です。
1. 請求書や領収書をファクシミリや電子メールにより貸付人に対して提出する場合には、実際に文書が交付されませんから、課税物件は存在しないこととなり、印紙税の課税原因は発生しません。
契約書について電子化されたものであれば非課税であると公表しています。いずれの事例からも、電子契約は非課税である旨が確認できるのです。
印紙税が非課税になる効果は大きい
電子契約を利用することで印紙税が非課税になりますが、どの程度影響のあるものなのでしょうか。印紙税の金額は課税文書上の記載金額により印紙税法上で例えば、請負に関する契約書に関して言えば以下のように規定されています。
記載金額 | 課税額 |
---|---|
100万円以下 | 200円 |
100万円超 200万円以下 | 400円 |
200万円超 300万円以下 | 1,000円 |
300万円超 500万円以下 | 2,000円 |
500万円超 1,000万円以下 | 10,000円 |
1,000万円超 5,000万円以下 | 20,000円 |
5,000万円超 10,000万円以下 | 60,000円 |
10,000万円超 50,000万円以下 | 100,000円 |
50,000万円超 100,000万円以下 | 200,000円 |
100,000万円超 500,000万円以下 | 400,000円 |
500,000万円以上 | 600,000円 |
特に記載がない契約 | 200円 |
ある程度大きな企業であれば、契約金額が100万円を超えるような契約は日常業務でざらにあるかと思います。
したがって、日々扱っている契約書数を考えると印紙税が非課税になるだけでも大きなコスト削減効果を期待することができるのです。
世界No1シェアのDocuSignを導入したソフトバンク株式会社では契約書1通あたり2,500円のコスト削減効果があったと公表しています。
この金額には印紙税の非課税金額以外にも人件費の削減分なども含まれますが、印紙税が非課税になることで大きくコストカットできることがわかるでしょう。
片方のみ利用していれば、印紙税が非課税になるのは片方のみ
課税文書は”紙”を指すため、電子契約を利用していれば印紙税は非課税です。
一方で実務では自社と相手方の両方が電子契約を利用せず、相手方片方のみ書面契約を利用する場合があります。この場合、相手方も印紙税は非課税になるのでしょうか。
自社片方のみ電子契約を導入する場合がある
電子契約サービスを導入して電子契約を締結する場合、自社、相手方両方が電子契約を原本として契約を締結する場合が一般的です。
しかし、実務上では、自社片方のみ電子契約を導入して、相手方は書面契約を利用する方法ととる場合が一定数あります。
なぜなら、電子署名を自社で扱うための規程はないものの、電子署名を禁止しているわけではない企業が一定数いるからです。
自社片方のみ電子契約を導入する流れ
自社片方のみ電子契約を導入する方法をとる場合、以下の流れを取ります。
- 自社の電子契約サービスを導入して電子契約PDFを作成する。
- 電子契約PDFに電子署名を付与する。相手方に電子契約を送付。
- 相手方が電子契約PDFを2部印刷し、製本、印刷する。
- 相手方の押印済み契約書1部を自社に返送してもらう。
上記の流れにより、自社は電子署名、相手方は押印により契約締結の意思を確認できるため、この2つの方法を利用することで契約締結が可能になります。
電子契約を導入していれば印紙税は非課税
上記の方法を取る場合、自社で発行した電子契約に対して印紙税は非課税です。一方で、相手方が自社の電子契約PDFを印刷し、押印した契約書に対しては印紙税の納付が必要になります。
この場合、書面契約に添付する収入印紙代を2社間でどのように負担するかは要検討となりそうです。
片方のみ電子契約を導入する場合の注意点
片方のみ電子契約を導入して契約締結することも可能ですが、導入時には以下の注意点があります。
- 片方のみ導入時の注意点①:相手方の理解がないまま片方のみ電子契約を利用すること
- 片方のみ導入時の注意点②:電子契約を印刷すると締結日時が見られない場合があること
片方のみ導入時の注意点①:相手方の理解がないまま片方のみ電子契約を利用すること
自社片方のみ電子契約を利用する場合、相手方が原本保持の仕方に理解がないまま契約するとトラブルになる場合があります。想像していた原本ではないので、契約を締結しなおしたいというケースです。
この場合、自社片方のみ電子契約を利用する場合の以下について丁寧に説明しておくことが重要となります。
- 自社片方のみ電子契約を利用する場合が法的に問題ない根拠
- 電子署名付きの電子契約がどのようなものか提示
- 実務上の契約締結までの流れ
片方のみ導入時の注意点②:電子契約を印刷すると締結日時が見られない場合があること
電子契約で契約を締結した場合、契約締結後にPDF上の署名パネルを参照することで署名者および署名日時を確認できます。
しかし、電子契約を印刷して契約締結をする場合、契約締結日時を確認できない点に問題が出る場合があります。
この時、合意締結証明書とよばれる、契約締結内容を証明した証明書を発行して、相手方に渡すことでトラブルを未然に防げます。
合意締結証明書上にはどのような権限者がいつ署名したかが記載されていますので、相手側を安心させることができるでしょう。
相手方も電子契約サービスを利用している場合の対応方法
573183413相手方がすでに電子契約サービスを利用している場合、調整が必要になります。調整が難航して、結果、書面契約での契約を継続するとなってしまっては業務効率化を期待できませんので、注意が必要です。
相手方と自社で利用する電子契約サービスが異なる場合、どちらのサービスに統一することで対応できます。この場合、相手方と自社のどちらの電子契約サービスを採用すべきかが論点です。
この際に例えば、以下を評価軸として選択をするとよいです。
- 登記に利用可能な電子署名を提供しているか
- グレーゾーン解消制度で電子署名法に準拠していると認められているか
- 自社で一括検証が可能なタイムスタンプであるか
- PAdESを利用しているか
登記に利用可能な電子署名を提供しているか
登記時に登記添付書面に利用可能な電子証明書として法務省が指定している電子契約サービスに記載があるかどうかが一つ目のポイントです。
法務省が認めている電子契約サービスであれば、ある程度信用できると判断することができます。
グレーゾーン解消制度で電子署名法に準拠していると認められているか
総務省・法務省・経済産業省がそれぞれのサイト上で、各省庁との契約締結に利用可能な電子契約サービスを記載しています。
この一覧に記載がある電子契約サービスであれば、ある程度信用ができるサービスであると判断することが可能です。
なぜなら、記載されるためにはグレーゾーン解消制度を通じて電子契約サービスが利用可能であるものであると承認を受ける必要があるからです。
自社で一括検証が可能なタイムスタンプであるか
電子契約は電子帳簿保存法 電子取引要件を満たした保存が必要です。要件の一つに真実性(文書を授受してから改ざんされていないことの証明)があり、その証明方法の一つとしてタイムスタンプの付与があります。
タイムスタンプは付与するだけでなく、一括検証ができることまでが要件です。しかし、利用する電子契約サービスや文書管理システムによっては、一括検証が可能なタイムスタンプベンダーに制限がある点に注意してください。
つまり、自社で一括検証が可能なタイムスタンプベンダーを利用しているかが一つのポイントになるでしょう。
PAdESを利用しているか
長期署名の国際標準規格であるPAdESを採用している電子契約サービスであるかが一つの確認ポイントです。
電子署名には電子署名法上で5年間の有効期限があるため、法人税法上で求められる7年以上の保存をしようと考えると長期署名対応がほぼ必須になります。したがって、PAdESが付与できるサービスであるかが一つの確認ポイントです。
まとめ 印紙税は非課税にしよう
自社片方のみだけでも電子契約を利用することで印紙税を非課税にできます。したがって、電子契約を利用できるのであれば可能な限り利用した方がコストカットの意味ではよいです。
印紙税の金額は契約書1通あたりの金額でいえばそこまで大きくないかもしれません。しかし、日々の業務で多数発生する契約書の印紙税を非課税にできることでコストカット効果は大きいですので、電子契約による印紙税削減効果は大きいのです。