「不動産業界で電子契約は利用できる?」
「不動産業界で電子契約を利用する注意点は?」
と疑問に感じていませんか。
2022/5に施行された改正宅建業法により、不動産業界で利用する多くの契約書が電子契約化可能になっています。しかし、一部の契約書は引き続き書面契約の締結を義務付けられているため、注意が必要です。
当記事では不動産業界で電子契約を利用しやすくなっている背景や不動産業界こそ電子契約を導入すべき理由、注意点までご紹介します。
不動産業界で電子契約サービスが導入しやすくなっている
宅建業法の改正により多くの契約書が電子契約化可能になりました。以下では、不動産業界で電子契約サービスが利用しやすくなっている背景について順を追って解説します。
従来より不動産業界では電子契約が求められていた
不動産業界では契約金額の高い契約を多数扱うこともあり、コスト削減やオペレーションの効率化を求めて業界全体で電子契約の利用が以前から求められていました。
電子契約の市場規模は拡大傾向にあった
一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)による「企業IT利活用動向調査」によれば、2020年の段階で電子契約を何かしらの理由で利用しているユーザが市場シェアの43.3%いたそうです。
新型コロナウイルスの流行もあったことで、不動産業界でも電子契約の利用を求める声が市場・業界全体で多数ありました。
不動産業界では電子契約を法的に認めていない点に課題があった
しかし、不動産業界では例えば以下のような不動産業務上で利用頻度の高い契約に対して、書面契約を義務付けていたため、業界全体で電子契約の活用が進まなかったのです。
- 重要事項説明書
- 宅地・建物の売買、交換、賃貸契約締結時に交付する書面 など
2022/5に宅建業法が改正されほぼすべての契約書を電子化可能になった
企業・業界からのペーパーレスを求める声に応じて、政府により押印廃止の動きが進みました。
デジタル改革関連法が2021/9に施行
2021/9には「社会全体におけるデジタル化の促進や社会課題解決に向けたデータ活用の実現」を目的としたデジタル改革関連法が施行されています。
この法律の中の1つの施策として、「押印・書面の交付等を求める手続きの見直し」が盛り込まれています。この施策によって、各種法律でこれまで書面契約が義務付けられていた契約が電子契約化できるようになったのです。
2022/5に改正宅建業法が施行
実際に2022/5には宅建業法が改正され、不動産業界において利用されるほぼすべての契約書が電子契約化可能になっています。
上述で紹介した不動産業界における以下の契約についても、電子契約化可能になっていますので、IT重説と併用することで、不動産業界における契約業務が大きくデジタル化可能になりました。
- 重要事項説明書
- 宅地・建物の売買、交換、賃貸契約締結時に交付する書面 など
一部の契約書は電子化できない点に注意が必要
とはいえ、すべての契約書を電子化できるわけではない点に注意が必要です。以下の契約については引き続き書面契約での契約締結が義務付けられています。
文書名 | 根拠法令 |
---|---|
事業用定期借地契約 | 借地借家法23条 |
企業担保権の設定又は変更を目的とする契約 | 企業担保法3条 |
任意後見契約書 | 任意後見契約に関する法律3条 |
特定商取引(訪問販売等)の契約等書面 | 特定商取引法4条、5条、9条、18条、19条、37条、42条、55条 |
とはいえ、現状書面契約での締結を義務付けていても、特商法などは2023年中に電子契約の利用が可能になる見込みですし、全体的に電子契約に向けて動いている点に留意が必要です。
したがって、あくまで一部の契約書が電子契約を利用できないだけであるので、電子契約サービスの導入は前向きに進めてよいでしょう。
不動産業界で電子契約サービスを利用するメリット
不動産業界で電子契約の利用が進んでいますが、なぜ不動産業界の企業こそ電子契約サービスを利用すべきなのでしょうか。以下では不動産業界の企業こそ電子契約サービスを利用すべきメリットを解説します。
メリット①:印紙税の削減効果が大きい
書面契約を電子契約化することで印紙税を非課税にできます。印紙税は印紙税法上で”課税文書”に対して課税されますが、”課税文書”とは”紙”を指すので、電子契約について印紙税は非課税です。
また、印紙税額は契約書上に記載された契約金額によって決定されますが、不動産業界で扱う契約書は契約金額が大きいので大きな費用を削減できます。
したがって、高額な契約を扱う不動産業界の企業こそ電子契約サービスを導入すべきであるといえるのです。
メリット②:顧客体験の改善効果が大きい
新型コロナウイルスの流行により、不動産業界の企業においても、オンライン上での方法による契約締結を求める声が多数出ています。
IT重説が可能になったものの、重要事項説明書や37条書面などは書面締結を長らく求められていたため、顧客体験を害していました。
しかし、2022/5に施行された改正宅建業法により上述の重要事項説明書や37条書面は電子化可能になっています。したがって、不動産業界の企業において、完全オンラインによる契約締結が可能になり、顧客体験を大幅に強化可能になっているのです。
また、立会人型電子契約サービスを利用すると、契約締結のためのURLが記載されたメールを相手方に送付するだけで契約締結が可能になりますので、大幅なリードタイムの短縮も実現できます。
したがって、不動産業界の他競合と顧客体験の面で後れを取らない為にも、電子契約サービスを利用して顧客体験の改善が急速に求められているのです。
メリット③:コスト削減効果が大きい
印紙税の削減に加えて、不動産業界において電子契約サービスを導入することで以下のコストを削減できます。
- 書面契約の作成・郵送・管理コストの削減
- 書面契約の検索・監査コストの削減 など
電子契約サービスで国内No1シェアの電子印鑑GMOサインによれば、電子契約サービスを導入することで契約業務にかかるコストの75%を削減できるそうです。
実際に電子契約サービスで世界No1シェアのDocuSignを導入するソフトバンク株式会社では契約書1通あたり2,500円のコスト削減に成功したと公表されていますので、電子契約サービス導入によるコスト削減効果は大きいといえるでしょう。
メリット④:文書保管を効率化可能
契約書は法人税法上で7年、繰越欠損金や特例まで踏まえると最長で11年4か月の保存が必要ですので、契約書管理の効率化が求められます。
不動産業界においても日々の業務の中で、多数の契約書や国税関係書類が発生しますので、文書管理の効率化が必要です。電子契約サービスを導入すると例えば、以下の機能を利用できますので、効率的な文書の一覧管理が可能になります。
- システム上での文書の長期保存
- 文書への属性付与、および、検索
- 文書別の閲覧制御
- 文書毎のバージョン管理 など
電子契約サービス上で文書保管を効率化するのであれば、上記の機能を搭載しているかが選び方・比較ポイントです。
利用時の注意点
不動産業界にいる企業にとって、電子契約サービスを導入するメリットは多数ありますが、一部電子契約サービスの導入時に注意点があります。
電子帳簿保存法対応が必要
電子契約は電子文書ですが、各種税法に基づいた資料保存が必要である点には違いはありません。要件を満たして保存が必要な税法の1つとして電子帳簿保存法があります。
もし電子帳簿保存法電子取引要件を満たして保存をしていない旨を国税調査時に指摘された場合、青色申告の承認取り消しなどのリスクがありますので確実な対応が必要です。
電子契約サービスの中には電子帳簿保存法対応のための以下機能を搭載しているサービスもありますので、比較検討の上導入を検討ください。
- 認定タイムスタンプの付与
- 主要三項目(取引年月日、取引先名、取引金額)による検索
- バージョン管理
- タイムスタンプの一括検証 など
2023/10施行のインボイス制度対応が必要になる場合がある
2023/10にインボイス制度が施行される予定です。インボイス制度とは業界問わず施行され、軽減税率制度への対応と益税の排除を目的としています。
また、課税事業者が発行するインボイスに記載された税額のみを控除できる仕入税額控除とすることが可能です。
このインボイス制度では、インボイスの記載要件さえ満たしていれば、契約書もインボイスの代わりとすることができます。つまり、電子契約上の文言を変更する必要がある場合が想定されているのです。
したがって、不動産業界企業においても、電子契約サービスを比較検討する際には、契約書文言を柔軟に変更できるか、事業者番号を属性情報に持たせられるかなどが比較ポイントとなるでしょう。
電子署名には5年間の有効期限がある
電子署名法施行規則6条で電子署名には5年間の有効期限が規定されています。一方で、法人税法上では7年以上の保存を求めているため、電子署名のみで法人税法で求める期間の真正性を証明できません。
そこで利用するのが長期署名です。長期署名とは、電子署名に対してタイムスタンプを付与することで、電子署名の有効期限を延長する技術です。理論上、長期署名を利用すれば10年、20年と有効期限を延長できます。
したがって、電子契約サービスを比較する際には認定タイムスタンプを付与できるか、長期署名が可能かが比較ポイントになるでしょう。
まとめ システムを導入して契約業務の効率化がおすすめ
不動産業界にいる企業にとって、電子契約サービスを導入するメリットは大きいです。一方で、電子帳簿保存法やインボイス制度対応など、一部導入時に注意点がありますので留意が必要でしょう。
とはいえ、サービス上で各種注意点に対応した機能を搭載したサービスも多いですので、導入時には注意点に対応した機能を搭載しているか比較検討して導入するようにしてください。
不動産業界の企業は電子契約サービスを比較検討・導入して、契約業務を効率化していきましょう!