「不動産の売買契約は電子化することができる?」
「デジタル改革関連法によって電子化することができる文書とは?」
と疑問に感じていませんか。
2021/9に施行されたデジタル改革関連法は2022/5/18に全面解禁されました。全面解禁されたことで、業務上、これまで電子契約化ができなかった不動産売買契約書を始めとする契約書の電子契約化が可能になっています。
当記事では、デジタル改革関連法より電子契約化可能になる文書、電子契約化することによる業務への影響について解説します。
2022/5/18に売買契約を含め不動産電子契約が解禁されました
上述したとおり、2022/5/18にデジタル改革関連法は全面解禁されています。
デジタル改革関連法により不動産売買契約などの電子契約化が可能に
2022/5/18の全面解禁により、借地借家法・宅建業法を含む44の法律が改正され、以下が実施されています。
- 文書の書面化義務の緩和
- 押印義務の廃止
今回の法改正により、不動産売買契約を含む、以下の文書の電子契約化が可能になっています。
- 申込書
- 重要事項説明書
- 35条書面
- 賃貸借契約書
- 売買契約書(媒介契約書)
- 37条書面
- 連帯保証契約書
- その他駐車場使用、清掃、メンテナンス、建物の維持管理に必要な契約書
2022/5/18には不動産売買契約において電子契約1号が誕生
2022/5/18の全面解禁実施当日には、国内No1シェアの電子契約サービスを利用した不動産売買契約の電子契約が実施されたことが公表されています。この事例からもわかる通り、今後は不動産業における契約業務が急速に電子化していくでしょう。
そもそも、デジタル改革関連法って何?
今回改正されたデジタル改革関連法とは何か、ご存じでない方も多いかと思います。以下では、デジタル改革の概要を解説します。
デジタル改革関連法とは
デジタル改革関連法とは、社会課題の解決するためにデータ活用を促進する点を目的とします。また、特定の1つの法律を指さず、以下6つの法律の総称です。
- デジタル社会形成基本法(※IT基本法は廃止)
- デジタル庁設置法
- デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律
- 公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律
- 預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律
- 地方公共団体情報システムの標準化に関する法律
この6つの法律の内、電子契約サービスが特に関連するのが「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」です。この法律の中で、各種法律が改正され、上述したような「文書の書面化義務の緩和」や「押印義務の廃止」が実施されています。
押印義務が廃止される法律と対象文書
押印義務が廃止するために改正された不動産関連の法律と対象文書を紹介していきます。以下の通りです。
対象文書 | 対象文書の押印義務を廃止する法律 |
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重要事項説明書 | 宅地武者取引業法:35条の5・7 |
マンション標準管理委託契約書 | マンション管理正常化推進法:75条の5 |
不動産特定共同事業契約に関わる書類 | 不動産特定共同事業法:24条の2、25条の2ほか |
鑑定評価書 | 不動産鑑定評価法:39条の2 |
集会の議事録 | 建物区分所有法:42条の3ほか |
設計図書 | 建築士法:20条の1・2 |
ただし、法改正後も「記名」が求められる点に留意ください。記名とは自筆以外の手段によって名前を書く行為を指しますので、オンライン対応ができます。
また、上記の不動産関連の法律と文書以外にも、公認会計士や社会労務福祉士などについても押印義務が廃止されています。
書面交付義務が緩和される法律と対象文書
書面交付義務が緩和された不動産関連の法律と対象文書を紹介します。以下の通りです。
対象文書 | 対象文書の押印義務を廃止する法律 |
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受取証書 | 民法:486条の2 |
定期借地権の書面(公正証書を除く)、定期建物賃貸借契約書 | 借地借家法:22条の2、38条の2 |
媒介契約書面、重要事項説明書、不動産売買契約書 | 宅地建物取引業法:34条の2、35条の8・9、37条の4・5 |
重要事項説明書 | マンション管理適正化推進法:72条の7 |
不動産売買契約を含む上記の文書は、当事者の承諾がある場合に、書面交付に代わり電子データでの提供をすることができます。
ただし、電子データによる提供をする場合、電子取引に該当するため、電子帳簿保存法電子取引要件を満たした保存が必要な点に留意ください。
また、上記の中でも不動産売買契約の記載があるとおり、不動産売買契約は今後電子契約化することができます。
不動産の売買契約書を電子化するメリット
不動産の売買契約書などの契約書を電子契約サービスにより電子化した場合のメリットを解説します。
メリット①:印紙税の削減などコスト削減効果
不動産馬場い契約などに対して電子契約を業務上で利用することで、以下のコスト削減効果を見込めます。
- 印紙税の削減
- 書面の作成・郵送・管理コストの削減
- 監査コストの削減 など
世界No1シェアのDocuSignを導入したソフトバンク株式会社では契約書1通あたり2,500円のコスト削減効果が業務上あったと公表しています。この事例からもわかる通り、電子契約によるコスト削減効果は非常に大きいです。
また、印紙税は契約金額に応じて、課税金額が徴収されます。この点、不動産業界の不動産売買契約書などは、契約書ごとに扱う金額が高額であるため、印紙税によるコスト負荷が高い点が課題となっています。
電子契約であれば、印紙税は非課税となるため、不動産売買契約書など、業務上の取りひきで高額な契約書を多数あつかう不動産業界で電子契約を利用すれば、コスト削減効果は非常に大きくなると考えられています。
メリット②:コミュニケーションの効率化によるリードタイムの短縮
これまで書面で不動産売買契約書などを交付していたため、取引のリードタイムが長期化する点に課題がありました。この点、不動産売買契約などを電子契約化すれば、これまで契約まで1~3週間程度かかっていた工程を5分弱程度に短くすることができる可能性があります。
もちろん、2022/5以降も書面交付による契約締結は今後もすることができますが、競合他社が電子契約を利用して取引のリードタイム短く契約締結を今後はしていくので、顧客体験上で劣っていく可能性があります。
したがって、顧客体験を向上させていくという意味でも電子契約対応はほぼ必須であるといえるでしょう。
メリット③:法対応が容易
不動産売買契約書を含め、契約書を電子取引した場合、電子帳簿保存法電子取引要件を満たした保存が必要です。電子取引要件は以下の通りです。
- 電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け
- 見読可能装置の備付け等
- 検索機能の確保
- 真実性の確保
上記の要件の内、システムで確保する必要があるのが「検索機能の確保」と「真実性の確保」です。いずれの要件も、自社で既にもっているファイルサーバー上などで対応する方法も理論的には可能ですが、難易度が高いです。
この点、電子契約サービスを利用すれば、クラウドシステム上でタイムスタンプの付与や検索に必要な項目の属性付与などができますので、法対応が容易です。
電子契約を利用する場合の注意点
電子契約を利用すると印紙税の削減など、メリットは非常に大きいです。一方で、電子契約を利用する場合に注意しなければならないポイントがあります。
法対応がおろそかだと青色申告の承認取り消しのリスクがある
不動産売買契約を始め、契約書を電子取引すると電子帳簿保存法電子取引要件を満たした保存が必要です。これは任意ではなく、必須で対応が求められる法律です。
もし電子取引要件を満たして保存をしていなかった場合、青色申告の承認取り消しのリスクがありますので注意が必要でしょう。
ただし、2021/12に国税庁よりこの電子取引要件に対して2年間の宥恕(ゆうじょ)措置が公表されていることから、2023/12までは不動産売買契約書などを電子取引したとしても書面で保存すれば要件を満たすことになっています。
とはいえ、電子契約の電子取引要件対応は遠からずに必須になりますので、電子取引要件対応がしやすい電子契約サービスを選ぶようにしましょう。
相手方へ電子契約の利用可否を確認する必要がある
電子契約を電子契約サービスを利用して開始する場合、相手方への事前確認が必要になる点に注意が必要です。相手方によっては、電子契約サービス経由での契約締結を難色を示す場合があります。
よくある場合としては、ITリテラシーが低いために電子契約サービスの利用を断る場合です。この場合は、相手方にも取引のリードタイム短縮を期待することができるなどのメリットがあることを丁寧に説明してください。
契約書の文言を変更する必要がある
契約書上に書面契約固有の単語がある場合、電子契約の単語に置き換える必要があります。例えば、書面契約上で頻繁に出てくる「書面」とは紙を表すため、電子的な文書を表す単語への置き換えが必要です。
その他、電子契約では電子署名で真正性を確保するため、押印などの単語が書面契約上にある場合には、電署署名を指し示す単語への置換が必要になるでしょう。
以上を踏まえた契約書の修正例は以下の通りです。
修正前:書面契約書の記載文言 | 修正後:電子契約書の記載文言 | |
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記載文言 | 甲と乙は、本契約成立の証として、本書2通を作成し、両者記名押印のうえ、各自1通を保有するものとする。 | 甲と乙は、本契約の成立を証として、本電子契約書ファイルを作成し、それぞれ電子署名を行う。なお、本契約においては、電子データである本電子契約書ファイルを原本とし、同ファイルを印刷した文書はその写しとする。 |
まとめ 不動産売買契約は電子化可能!
不動産業における不動産売買契約などは2022/5/18に全面解禁されたデジタル改革関連法により、関連する宅建業法などが改正されたことで、電子契約化をすることができます。
改正により不動産売買契約などが電子契約化可能になったことで、不動産業では今後ますます電子契約による契約締結が増えていくと考えられるでしょう。
競合他社が電子契約を利用している中で、書面契約のみで契約締結していると、顧客体験の側面で競争優位性を失いかねないため、早期に電子契約対応が必要です。
不動産売買契約を始めとする不動産関連の契約書を電子化して、契約業務を効率化していきましょう!