テレワーク推進やペーパーレス・脱ハンコ化に伴って電子契約を導入する企業が増えていますが、中には「まだ電子契約の導入は考えていない」という企業もあるでしょう。
しかし、自社では電子契約の導入予定がないとしても、取引先から電子契約を依頼される可能性があります。
この記事では、取引先から電子契約を依頼された場合の確認事項と、どうしても電子契約を利用できない場合の対応方法などを解説していきます。
取引先から電子契約での締結を依頼された場合の確認事項
取引先から電子契約の締結を打診された場合、まずはその契約が受け入れ可能なものであるかを確認します。
法令や社内規定と照らし合わせ、基本的な問題をクリアできていることを確かめていきましょう。
電子契約に対応した書面かどうか
電子契約については以下の法律で細かく規定が行われており、電子化できる契約書・できない契約書が明確に定められています。
法律名 | 概要 |
---|---|
電子署名法 | 電子署名に対し、紙への押印・サインと同等の法的効力を認めた法律 |
IT書面一括法 | Web・電子メールなどによる書類の交付を認めた法律 |
e-文章法 | 商法・税法により紙媒体での保管が義務付けられていた財務・税務関係書類などの電子化を認めた法律 |
電子帳簿保存法 | 特定の国税関係帳簿類の電子化を認めた法律 |
法改正によって電子契約可能な書類の範囲は少しずつ広がってきていますが、現在も以下に該当する契約書は電子化が認められていないので注意が必要です。(2022年3月時点)
- 宅地建物売買等媒介契約
- 定期借地契約・定期建物賃貸借契約
- マンション管理業務委託契約
- 訪問販売等特定商取引における交付書面
- 金融商品クーリングオフ書面 など
また電子化するにあたって当事者の承認等が必要となる文書も存在します。
取引先から電子契約の依頼を受けた場合は、法令で電子化が許可されているものであることを確認しましょう。
社内規定の変更が必要となるかどうか
取引先から電子契約を依頼された際は、社内規定やルールについても確認する必要があります。
電子契約が法的に認められているものであっても、社内規定で禁止されている場合は利用ができないからです。
また社内規定の内容が古いままである場合、電子契約に関するルールが定められていない可能性もあります。
今後、電子契約を利用する機会は増えていく傾向にあるため、電子契約に関する社内規定の追加についても検討していく必要があるでしょう。
契約内容の性質上、重要度の高いものであるかどうか
電子契約の利用が法令上・社内規定上問題ないことを確認できたら、次に契約内容の重要度を検討します。
例えば、以下のようなケースでは電子契約を控える、または書面契約と並行するといった対応をとるのが安全です。
- 代表社印を用いるような厳格な契約
- 取引期間が浅く、信頼関係の構築にいたっていない取引先との契約
- 高額な商品を扱う売買契約書 など
取引先が利用している電子契約サービスの種類もチェック
取引先から依頼された電子契約が受け入れ可能なものであると判断された場合は、次に取引先が利用している電子契約サービスの情報をチェックしましょう。
電子契約には大きく「当事者型署名」と「立会人型署名」の2種類があり、取引先がどちらの方式を採用しているかによって必要な対応が異なります。
当事者型署名の場合
当事者型署名は、契約の当事者が電子証明書を取得したうえで電子署名を行う署名方式のことです。
例えばA社・B社で電子契約を行う場合、A社とB社のそれぞれが電子署名を付与する形で契約を締結します。
当事者型署名では、認証局と呼ばれる第三者が発行する電子証明書の付与によって本人を証明するのが特徴。
証拠力や法的効力が高い署名方式であるため、重要度の高い契約書などで用いられることがあります。
ただし、電子証明書の発行には費用がかかる他、取引先と同じ電子契約サービスを使わなければならないといったデメリットもあり、簡単には導入を決断できないシステムと言えます。
一般的な契約書で当事者型署名の利用を打診された場合は、次に紹介する立会人型署名での対応を検討・依頼してみるのも1つです。
立会人型署名(事業者型署名)の場合
立会人型(事業者型)署名とは、第三者(電子契約サービスを提供する運営会社)が立会人となって電子署名を行う署名方式のことです。
例えばA社・B社で電子契約を行う場合、立会人となる電子契約サービスの運営会社が電子署名を付与します。
このとき、A社・B社はそれぞれ電子メールやSMSなどによって本人確認を行うことになります。
取引先とメールアドレスを共有しておくだけで手軽に電子契約を結べるため、導入のハードルとしては当事者型署名より低いと言えるでしょう。
ただし、企業によっては代表者のメールアドレスを開示したくないというケースもあり、メールアドレスの公開が可能かどうかの確認が必要となります。
認定タイムスタンプの有無
電子文書が法的に有効なものであると証明するには、契約書に対して「誰が」「何に」「いつ」合意したのかを明らかにする必要があります。
当事者型署名・立会人型署名のいずれの場合でも、電子署名で証明できるのは「誰が」「何に」の2項目のみ。
その文書が「いつ」作成されたものなのかを証明するには、認証タイムスタンプという技術が用いられます。
認証タイムスタンプは時刻認証局と呼ばれる第三者機関が発行するもので、その時点で文書が存在していること、また改ざんが行われていないことなどの証明が可能となります。
なお、認証タイムスタンプという技術は日本独自のものであるため、外資系の電子契約サービスには搭載されていない場合がほとんどです。
取引先から電子契約を依頼された場合は、取引先が使用している電子契約サービスにタイムスタンプ機能が含まれているかどうかも確認しておくと良いでしょう。
電子化の対応がどうしても難しい場合の対処方法
どうしても社内で同意を得られなかった場合など、電子契約の利用ができないケースも考えられます。
電子契約の導入を断念せざるを得ない場合は、取引先に相談して以下のような対処を検討してみましょう。
電子契約と書面契約の併用
電子契約を導入しつつ、書面契約も継続して行うという方法です。
同じ契約締結の作業を2度行わなければならないため非効率的ではありますが、取引先の希望を受け入れつつ、自社の社内規定にも沿うことができるため、急な依頼の際は有効な手段と言えるでしょう。
取引先側で紙の原本をPDF化(電子化)してもらう
捺印した紙の契約書をPDF形式で送ってもらい、印刷・捺印した契約書を再度PDFで返送する方法です。
自社では契約書を印刷した状態で残すことができ、取引先側では返送されたPDFをそのままデータ保管できるため、一見するとスムーズな方法のように見えます。
ただし、PDFを印刷しただけの契約書は厳密にはコピーという扱いになり、万が一の際に証拠として扱ってもらえない可能性がある点に注意が必要です。
まとめ
- 取引先から電子契約の依頼を受けた場合は、はじめに法令・社内規定に反していないかどうか確認する
- 次に取引先が使用している電子契約サービスを確認し、適切な方法で署名を残せることを確認する
- どうしても電子契約の対応が難しい場合は、書面契約との併用で双方のルールに対応するという方法がある
電子契約は業務効率化やコスト削減などのメリットを期待できる便利なシステムです。
すぐには導入が難しい場合でも、電子契約が普及していくことを踏まえて社内規定の改正などを検討していく必要があると言えるでしょう。