電子契約にも捺印は必要?印影の役割と法的効力
電子契約にも捺印は必要?印影の役割と法的効力

捺印が持つ意味・役割と、電子契約における捺印の必要性を解説

新型コロナウイルスのまん延に伴うテレワーク推進や、ペーパーレス・脱ハンコといった世の中の動きに乗じて、企業で取り扱う契約書類のデジタル化が加速しています。

一方で、「電子契約の書類には捺印しなくて良いのか?」「捺印しないと法的効力がないのでは?」といった疑問・不安を持つ方も少なくありません。

そこでこの記事では、契約書における捺印の意味と必要性について解説していきます。

目次

書面契約における捺印の意味とは

書面契約における捺印の意味とは

日本においては契約書に捺印して印影を残す商習慣が今もなお根強く残っていますが、実は、印影そのものに法的効力があるというわけではありません。

では、なぜ契約書に捺印する必要があるのでしょうか?

まずは、書面契約における捺印の意味と、企業で主に利用されている印鑑の種類・役割について解説していきます。

書類に印鑑を押す理由

契約書への捺印は、捺印した人物がその書類を確認・承認したこと証明するために行うものです。

通常、印影が契約書に残されれば、その文書の内容を第三者が勝手に偽造・改ざんすることができなくなります。

これにより、本人が自分の意思によって契約締結を行ったという証になるのです。

民事訴訟法228条4項には「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」と記載されています。

また、過去には「反証がない限り、該印影は本人または代理人の意思に基づいて成立したものと推定するのが相当である」という最高裁判所の判例も出ているのです。(最高裁昭和39年5月12日判決・民集18巻4号597頁)

このように、「本人の印影がある=本人の意思によって捺印されたものである」とする推定があり、かつ民事訴訟法228条4項によって契約の成立も推定されることを「二段の推定」と呼びます。

この“二段の推定”に基づく法解釈により、契約書に捺印する文化が現在まで残っているというわけです。

会社で使われている印鑑の種類

企業や店舗などでは、現在も意思表示の証として以下のような印鑑が活用されています。

役割 効力 用途例
代表者印
(会社実印)
会社のトップが実印として使用する印鑑。登記の際に必ず届出を行う必要があり、法的・社会的な権利義務が発生する。 株券発行・不動産取引・相続・連帯保証契約・企業買収など
役職印 部長・課長など、特定の役職を持つ人物が用いる印鑑。役職者の意思表示としての効力を持っている。 契約書・社内文書・社内決裁・稟議書など
銀行印 銀行や金融機関に対して届出を行った印鑑のこと。法的効力は強くないものの、資金移動・管理に関わるため厳重な管理が必要。 口座開設・資金移動・小切手や手形の発行・保険や証券の契約など
会社印・角印 会社における認印の役割を持つ。印鑑証明書の添付までは求められない程度の契約書などで使用する。 見積書・請求書・領収書・発注書・社内向けの通達文書など
個人印 社員が個人で使用する印鑑のこと。朱肉を使う印鑑だけでなくシャチハタなども使用可能。法的効力はないものの、押印には責任が伴う。 宅配便の受け取り・出勤簿・伝票など

電子契約なら捺印不要!その理由は

電子契約なら捺印不要!その理由は

電子契約の場合、契約書は電子データとなっているため、捺印することは物理的に不可能です。

では電子契約の際、どのようにして意思表示の証を残すのかというと、「電子署名(デジタル署名)」を付与することで本人証明を行います。

電子署名には暗号化技術が用いられており、万が一改ざんなどが行われた場合には検知することが可能です。

また電子署名と合わせて認証タイムスタンプを付与することにより、署名した日時も証明できます。

電子契約の法的効力については、「電子署名法」という法律でその取り扱いが以下のように定められています。

第3条
 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

つまり、電子署名が付与された電子文書であれば、印影がなくても法的に認められるということです。

捺印の有無が契約成立に影響しないという内容は、経済産業省からも以下の通り発信が行われています。

Q.契約書に押印をしなくても、法律違反にならないか。
・私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。
・特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。
引用元:経済産業省 押印に関するQ&A

電子契約の際は印鑑ではなく電子署名の活用がおすすめ

電子契約の際は印鑑ではなく電子署名の活用がおすすめ

電子契約には捺印が必要ないことが分かりましたが、契約締結の分かりやすさや見栄えの良さといった観点から、電子契約にも印影を残したいと考える方は少なくありません。

ここからは、印影を電子契約に用いるリスクと、電子署名で契約締結を行うメリットについて詳しく見ていきましょう。

本物の印影を電子契約に用いるリスク

電子契約に印影画像を貼り付ける際、実際の印影をスキャンしたものを利用しているケースがあります。

しかし現代はスキャナーの性能も向上していますし、3Dプリンターなどを用いることで誰でも同じ印鑑をつくれるようになってきています。

つまり、電子文書に貼り付けた印影データが流出すれば、印鑑を偽造されるリスクになり得るということです。

認印程度のものであれば問題ありませんが、銀行印や実印などの印影を電子契約に利用することは避けた方が良いでしょう。

電子署名の特徴とメリット

電子署名の技術を用いて契約締結を行うメリットとして、以下のような点が挙げられます。

業務効率化・時間短縮

電子契約を導入することで、契約締結に関連する業務の効率化・時間短縮が可能です。

書面契約の場合は契約書の印刷・製本・捺印・郵送といった一連の業務が生じていましたが、電子契約であればこれらの作業を全て省略することができます。

また相手方が契約書を確認・捺印して返送するまでの時間も短縮できるため、これまで1週間以上かかることも普通であった契約締結業務が、最短数分で完了できるようになります。

コスト削減

契約締結に伴うコストを大幅に削減できる点も電子契約導入のメリットです。

電子契約を導入することで、契約書の印刷や郵送にかかっていた費用、また人件費などの削減が可能です。

電子契約の場合は印紙税も不要となるため、高額な取引を行う企業にとっては特にメリットが大きいと言えます。

コンプライアンス強化

デジタル署名・タイムスタンプ機能を用いた電子契約であれば、データのアクセス記録やログイン後の操作記録などを全て履歴として残すことができます。

そのため書面契約と比較してなりすましや改ざんのリスクが低く、もしもの場合でも簡単に犯人を特定できるため、コンプライアンス面でもメリットがあると言えるでしょう。

また火災や地震などの自然災害によって機材が破損した場合でも、クラウド上の電子契約データが影響を受ける心配はありません。

契約書の破損・紛失リスクがなく、復旧も簡単に行えることから、BCP対策の面でも効果的な仕組みとなっています。

まとめ

まとめ
  • 書面契約では本人証明のために捺印を行うものの、印影そのものには法的効力がない
  • 電子契約の場合は捺印を必要とせず、捺印の代わりに電子署名・タイムスタンプの技術で本人証明を行う
  • 電子契約を導入することで、コスト削減やコンプライアンス強化といったメリットが期待できる

これまで当たり前に行ってきた捺印ですが、電子契約の場合は電子署名が捺印の代わりを果たしてくれます。

電子署名・タイムスタンプは法的効力の高い仕組みですので、電子契約を導入する際はぜひ署名システムの利用をご検討ください。

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