リモートワークを導入する企業が増える中、電子契約システムを導入してインターネット上で電子署名・タイムスタンプの付与を行う人が多くなっています。書面契約と比較した場合、電子契約にはさまざまなメリットがありますが、電子契約とは何かよく知らない人もいるでしょう。
そこでこの記事では、電子契約とは何か、基本的なことから分かりやすく解説します。電子契約の種類や関連する法律を確認した後、電子署名の役割や電子契約のメリットとはどういったものか見ていきましょう。
電子契約とは
そもそも電子契約とは、電子化したデータに電子署名などを付与してインターネットでやり取りする契約方式です。売買契約などの締結が可能で、電子化した契約書は一般的に会社のサーバーや電子契約システムのクラウドに保存されます。
日本には、紙と印鑑で契約を結ぶ商習慣があります。しかし、2001年以降、電子帳簿保存法や電子署名法などの法律が施行されたことを背景に、電子契約を導入する企業が増えつつある状況です。
電子契約の種類
電子契約と一口に言っても、実はいくつかの種類に分類されます。この章では、電子契約サービスの種類と署名の種類を簡潔に解説します。
電子契約サービスの種類
電子契約サービスの種類は、事業者署名型と当事者署名型の2つあります。
事業者署名型は、電子契約サービスの事業者が電子契約に使用する鍵を管理します。一方、当事者署名型は、電子契約サービスの利用者が鍵を管理するという違いがあるので覚えておきましょう。
電子署名の種類
電子契約システムにおける電子署名の種類は、次の3つに分けられます。
- クラウド署名
- リモート署名
- ローカル署名
クラウド署名とは、電子契約システムの事業者がクラウド上で電子署名に使用する鍵を管理する仕組みです。これに対して、リモート署名は利用者がサーバー上で鍵を管理します。ローカル署名は、ICカードなどを電子署名の鍵として使用しなければいけません。
なお、クラウド署名は前述の事業者署名型、リモート署名とローカル署名は当事者署名型に分類されます。
普及率
一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の調査によると、2020年時点で7割ほどの企業が電子契約システムを採用もしくは検討していることが分かっています。
働き方改革の推進や新型コロナウイルスの蔓延によって、今後はもっと多くの企業に普及していくことでしょう。
市場規模
株式会社アイ・ティ・アールの調査によると、電子契約の2020年における市場規模は約102億円(ベンダーの売上金額ベース)であるとされています。
同調査で、2021年の市場規模は143億円、2022年は176億円、2023年は198億円と予想されていることから、将来的に電子契約の市場規模はさらに拡大していくと言えるでしょう。
関連する法律
電子契約に関連する法律とその内容について、この章で簡単に紹介します。
電子署名法
電子署名法は、電子署名の定義について明記しています。電子署名とは何か、については後述するのがあわせてご確認ください。
民法
民法522条 第2項では、契約方式の自由について定められています。特定の場合を除き、契約時は必ずしも書面が必要ではないことが明記されています。
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法は、契約書や領収書など取引情報に関連する書面について7年間の保存期間を設定しています。しかし、一定の要件を満たす場合は、これらの書面を電子化して長期保存することが認められています。
電子契約も法的に契約として有効であり、かつ多くのメリットがあることから、現在では多くの事業者が導入しているか、導入を検討しています。
書面契約との違いを比較
電子契約とは、書面契約と具体的にどのような違いがあるのでしょうか。両者の違いを簡潔にまとめた一覧表を作成したので、電子契約の導入を本格的に検討する前に確認しておくことをおすすめします。
比較項目 | 電子契約 | 書面契約 |
---|---|---|
署名の方法 | 電子署名 | 押印、直筆サイン |
締結日時の証明方法 | タイムスタンプ | 書面への記入 |
契約者間の確認方法 | 電子データの受け渡し | 書面原本の受け渡し、郵送 |
契約書の保管方法 | サーバー、クラウド | キャビネット、倉庫など |
電子署名とは
電子契約について調べると、電子署名という言葉をよく見かけることになります。
電子署名とは、電子契約に付与することで当該データにおける本人性や非改ざん性を証明するものです。書面契約での押印や直筆サインと同じような役割を持ちます。
電子署名の役割
電子署名の役割は、以下の2つです。
- 作成者・日時を証明する
- データの改ざんを防止する
電子契約に電子署名・タイムスタンプを付与すると、文書を作成した人の名前や時間が記録されます。記録は後から確認できるため、なりすましを防ぐ証拠になります。
また、電子署名・タイムスタンプが付与された電子データは、第三者によって変更することが非常に難しいです。もし、誰かに内容を改ざんされた場合でも、その旨が検知されるので契約業務に大きな影響が出ることを防止できます。
電子契約を導入するメリットを解説
電子契約とは、どのようなメリットがある仕組みなのでしょうか。この章では、電子契約システムを利用することによって感じられるメリットについて解説します。
さまざまなコストの削減が可能
電子契約サービスを利用すれば、以下のコスト削減につながります。
- 収入印紙代
- 印刷代
- 郵送代
- 人件費
- 書面の保管費用
書面と契約内容が同じでも、契約書を電子化すれば収入印紙を貼付しなくてすみます。これは、法律できちんと定められたルールです。
また、契約書を紙に印刷する必要がないので、用紙やインク代を削減できます。書類はインターネットでやり取りするため、切手などの郵送代も不要です。
電子契約サービスを導入すれば、今まで必要だった契約業務の関連作業が少なくなるので人件費の削減にもつながるでしょう。
その他、書面を保管するスペースを用意しなくていいので、場合によってはオフィスの賃料を安く抑えられる可能性があります。
業務効率のアップにつながる
電子契約を導入すれば、書面の印刷や押印、郵送、返送などの作業がすべて不要になります。なぜなら、インターネットを介して作成した契約書のデータを相手に送付して、返事を待ち、内容を確認するだけで済むからです。
また、書面契約だと、印刷後に契約書の間違いを発見した場合、パソコンでデータを修正して再度印刷する手間がかかります。しかし、電子契約ならデータを編集するだけで完了するので、全体的に業務効率の改善・向上につながることが予想できます。
電子契約システムの中には、パソコンだけでなく、スマホに対応しているものも多いです。こうしたシステムを導入すれば、出先や手の空いた時間にサッと契約業務を進められるでしょう。
コンプライアンスを強化できる
電子契約を締結する際は電子署名を使用するため、第三者による内容の改ざんを防止できます。そのため、コンプライアンスの強化が可能です。
また、書面契約と違って、契約書をどこかに紛失するリスクがありません。会社のサーバーもしくは電子契約システムのクラウドで電子化した契約書を管理できるので、盗難に遭うこともないでしょう。
全社で契約データを一元管理できるので、業務の透明性が上がり、作業のし忘れ防止につながることも電子契約サービスを導入する大きなメリットの1つと言えます。
電子契約システムを導入する際の注意点・デメリットとは
電子契約システムとは非常に多くのメリットがある仕組みですが、注意すべき点やデメリットも存在します。
電子契約システムを本格的に導入する前に、どのような点に気を付ける必要があるのか確認しておきましょう。
電子化できない契約書が存在する
法律的な問題ですが、日本で使われているすべての契約書の電子化は、現状、認められていません。そのため、自社で電子化できない契約書を多く取り扱っている場合は、電子契約システムを導入することでかえって業務が煩雑になる恐れがあります。
下記は、電子化が認められていない契約書の例です。
- 宅地建物売買媒介契約書(不動産)(ただし、現在電子化について社会実験が行われており、近い将来に電子契約が許容される可能性があります。)
- 定期借地契約
- 定期建物賃貸借契約 など
電子契約システムを導入する前に、自社で取り扱っている契約書の電子化が認められているか確認しておきましょう。
取引先に迷惑をかけてしまうことがある
電子契約システムを導入する場合は、契約書をやり取りすることになる取引先にもサービスの内容を説明しておきましょう。
場合によっては、相手にも電子契約システムの導入をお願いしなければいけない可能性があります。そうなると、お金と時間がかかってしまうので、あらかじめ話を通しておくことが大切です。
もし、取引先に自社と同じ電子契約システムを導入してもらう場合は、今後の関係をより良いものにするためにも、サービスの基本的な利用方法や便利な機能などを事細かに紹介することをおすすめします。
まとめ
電子契約とは、契約書などの書類を電子化することで時間や場所を気にせずに契約を締結できる仕組みです。
紙ベースで書類を管理する必要がないため、業務の効率化につながったり、印紙代などのコスト削減が実現したりなどのメリットがあります。ただし、電子契約システムを導入するためには、社内外に理解を求めなければいけません。また、法律的に、電子化が認められていない契約書もあるので注意が必要です。
今回紹介した内容を参考に、自社で電子契約システムを導入すべきか慎重に検討してみてください。