「電子契約サービスで立会人型と当事者型があるけれど、仕組みとして何が違うの?」と疑問に感じていませんか。
電子署名を利用者自身が電子契約に付与するか否かにより、電子契約サービスは立会人型と当事者型の2種類に分類されます。立会人型・当事者型いずれも法的には有効であるものの、係争時の信頼性の点で異なると考えられるため検討が必要です。
当記事では、電子契約サービスの種類の違い、立会人型・当事者型のメリット・デメリット、立会人型電子契約サービスの法的有効性までご紹介します。
電子署名の使い方により立会人型と当事者型がある
冒頭でご紹介した通り、電子契約サービスは利用者自身が電子署名を付与するか否かにより以下の2種類があります。
- 当事者型(当事者署名型、本人型)
- 立会人型(事業者型)
当事者型(当事者署名型、本人型)
当事者型(別名、当事者署名型、本人型)とは、読んで字のごとく電子契約サービスの利用者自身で電子署名を付与するタイプの電子契約サービスです。
当事者型を利用する場合、自身で電子署名を付与するために、電子証明書の発行が必要です。電子証明書を発行するためには手間とコストがかかるものの、立会人型を比較して係争時の信頼性は高いと考えることができます。
ただし、現在電子契約サービスを利用するユーザの多くは電子署名付与の手間とコスト負担の高さから、立会人型を利用しているようです。
立会人型(事業者型)
立会人型(別名、事業者型)は、当事者型と異なり電子契約サービス利用者自身で電子署名を付与する必要はありません。事業者型と呼称される通り、電子契約サービス事業者が利用者に代わり電子署名を付与します。
多くの立会人型の電子契約サービスでは、契約締結用のURLが記載されたメールを相手方に送付することで契約締結ができるため、手間とコストをかけずに電子署名を付与し契約業務を完了できる点がメリットです。
一方で、立会人型は電子証明書を利用者自身で発行しない分、当事者型と比較して係争時の信頼性は低いと考えられることがデメリットでしょう。
ハイブリッド型を利用できるサービスもある
上述の通り、立会人型と当事者型は一長一短あり、判断に迷います。一部の電子契約サービスでは、当事者型と立会人型を併用できるハイブリット型も存在するため、電子契約サービス導入時に判断材料とするとよいでしょう。
ハイブリッド型を利用する場合、例えば送信側の自社企業では係争時の信頼性を高めるために当事者型を利用、受信側の相手方企業は電子契約の手間とコストを抑えるために立会人型の利用、のような使い方をすることができます。
利用者が電子署名を付与しない立会人型(事業者署名型)は法的に有効か?
上述の通り、一般的には立会人型を利用するユーザが多いようです。
しかし、ここで「事業者が利用者の代わりに電子署名を付与する立会人型は法的に有効なのか?」と疑問がでてきます。以下ではこの電子署名に対する疑問に対して回答していきます。
そもそも電子契約は法的に有効か?
まず、そもそも電子契約が法的に有効であるか確認します。結論、電子契約は書面契約と同様に法的に有効と考えることができます。民法522条2項にて契約締結をする場合にはその契約形式を問わないと明記されているためです。
◆民法522条2項
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
つまり、極端な話をすれば口頭での契約締結も法的には有効です。ただし、係争になった場合に、証拠の信頼性が問われるため、多くの場合では契約書を残しています。
そもそも電子署名に求められる要件とは?
電子契約の真正性を確保するために利用される電子署名について解説します。電子署名が付与された電子文書が真正性を確保する旨は電子署名法第3条で確認することができます。
◆電子署名法第3条
電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する
上記に記載がある通り、電子署名は電子文書が真正に成立したことを証明する手段として認められると考えることができます。
電子署名法第2条を見ると電子署名の要件が確認することができます。電子署名に求められる要件は以下の通りです。
◆電子署名法第2条
第二条 この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。
つまり、電子署名に求められる要件は以下であると解釈することができます。
- 電子署名が本人により署名されたと証明できること(本人性を証明すること)
- 電子署名が付与された以降に文書が改ざんされていないと証明できること(非改ざん性を証明すること)
立会人型(事業者署名型)は電子署名法を満たすか?
立会人型電子署名は上述のような電子署名の要件を満たすといえるのでしょうか?
この問いに対して法務省が公表した「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法3条に関するQ&A)」Q2の資料をみると回答できます。
以上の次第で、あるサービスが電子署名法第3条に規定する電子署名に該当するか否かは、個別の事案における具体的な事情を踏まえた裁判所の判断に委ねられるべき事柄ではあるものの、一般論として、上記サービスは、①及び②のプロセスのいずれについても十分な水準の固有性が満たされていると認められる場合には、電子署名法第3条の電子署名に該当するものと認められることとなるものと考えられる。したがって、同条に規定する電子署名が本人すなわち電子文書の作成名義人の意思に基づき行われたと認められる場合には、電子署名法第3条の規定により、当該電子文書は真正に成立したものと推定されることとなると考えられる。
上記の政府の見解を見ると、立会人型を利用している場合でも電子署名法第3条に記載されているような真正性は確保できると考えることができます。
したがって、立会人型は法的に有効であると考えられるでしょう。
自社の要件に適した電子契約サービスの選び方
以上のように電子契約サービスには利用者自身が電子署名を付与するかにより分類されます。この情報を踏まえた上で、利用者はどのように電子契約サービスを選んでいくべきなのか、選定軸例をご紹介します。
係争時の信頼性を検討する
ここまで紹介してきた通り、係争時の信頼性の軸で電子契約サービスを選定する方法がまず考えられます。電子文書に対して、係争リスクを高く見込むのであれば、立会人型ではなく、当事者型を利用しましょう。
一方で、係争リスクよりも相手方の手間やコストを軽減する方の優先順位が高いのであれば立会人型の導入がおすすめです。
立会人型と当事者型のいいとこどりをしたいのであれば、ハイブリッド型を選ぶとよいでしょう。
ただし、ハイブリッド型を利用できる電子契約サービスは限られていますので留意ください。また、一般的には立会人型を選択するユーザが多い点も念頭に置く必要があります。
電子契約のメリットを享受できるサービスを選ぶ
係争時の信頼性のほかに電子契約サービスを利用した場合に一般的に受けられるメリットが受けられるかどうかで判断するのもいいです。電子契約サービスの代表的なメリットは以下の通りです。
印紙税などのコストメリット
電子契約サービスを導入することで次のコストメリットがあります。
- 印紙税の削減
- 契約書の保管・管理コストの削減
- 監査コストの削減 など
特に印紙税の削減効果は大きいです。印紙税は契約書に記載された契約金額により課税金額が決まりますが、契約書1通あたり2,000円~かかる場合もありコストメリットは大きいといえるでしょう。
世界No1シェアNo1のDocuSignを利用しているソフトバンク株式会社事例をみると1通あたり2,500円のコストメリットがあったと確認することができます。
取引のリードタイム短縮
郵便法が2021/10が改正され普通郵便の最短配送日が翌々日になりました。
したがって、取引のリードタイム長期化が懸念されます。特に海外企業との取引やNDAなどの修正が多数発生する契約書のやり取りが多い企業は長期化が課題となるでしょう。
この点、電子契約サービス(立会人型)を利用すると契約締結用のURLが記載されたメールを相手方に送付するのみで契約締結を完了させられる仕組みのものも多いため、取引のリードタイム短縮を期待できます。
また、電子契約サービスには契約書の一括送信や契約書のテンプレート登録機能を搭載している仕組みのものも多いため、さらに取引のリードタイム短縮を期待できる点がメリットでしょう。
契約書別のセキュリティの強化
契約書別の閲覧・修正履歴の管理や持ち出し・紛失リスクへの対応が契約業務では課題です。
この課題に対して、電子契約サービスであれば契約書別のアクセス制御、ユーザ別のIPアドレス制御、SSOなどシステム的に対応ができる点がメリットです。
一方で、システムを利用するためシステム固有のリスクも生まれる為、リスクへの対応指標としてISO 27001を取得しているかなどを確認する必要があるでしょう。
電子署名法以外の法対応にも対応が可能なサービスを選ぶ
電子署名法以外にも対応しなければならない法律がありますので、各種法対応が可能な電子契約サービスを選ぶことが重要です。
電子契約は電子とはいえ、税法上の国税関係書類に該当しますので法人税法などに定められる7年保管(繰越欠損金がある場合10年)の保存が必要です。
したがって、クラウドサービス上で7年間の保管可能かが1つ選定軸となります。
ただし、契約書は必ずしも電子契約サービス上で保管する必要はないため、他社内ファイルサーバー上で保存してもよい点にご留意ください。
また、電子契約は電子取引に該当しますので、電子帳簿保存法電子取引要件を満たした保存をする必要があります。電子帳簿保存法は2022/1に改正法が施行され、国内取引において電子取引された電子文書は必ず電子保存せねばならなくなりました。
仮に国税調査の際に対応不備が指摘された場合、青色申告の承認取り消しリスクがありますので注意が必要です。
ただし、2021/12に国税庁より2年間の宥恕措置が公表され、厳格な電子取引対応は2024/1から実施すればよい点にご留意ください。
まとめ 電子契サービス各種の違いを理解して導入しよう!
電子契約サービスは利用者自身が電子署名を付与するか否かにより、立会人型と当事者型の2種類に分類することができます。立会人型・当事者型いずれの種類にしろ、電子署名は付与されますが、電子署名を付与する主体が異なる点に注意が必要です。
係争時の信頼性は当事者型の方が高いと考えられますが、手間やコスト負担を少なく電子署名を付与しようと考えると立会人型の使用がおすすめです。
立会人型・当事者型いずれの種類の電子契約サービスを導入するにしろ、導入メリットはデメリットを上回りますので、電子契約サービスを導入してペーパーレス化、契約業務効率化をしていきましょう!