新型コロナウイルスの感染拡大以降、契約書や社内文書などの取り扱いを電子化する動きが広がりつつあります。
電子契約を導入するうえで「電子契約書にも印鑑は必要?」と疑問を持つ方も多いのですが、電子印鑑の必要性を理解するには、まず印鑑の意味や役割といった基本の仕組みを知ることが大切です。
この記事では、印鑑の種類とその役割を解説しつつ、電子印鑑の必要性や導入メリット、法的効力の有無などをまとめています。
証拠能力を持つ電子印鑑の作成方法も掲載しているので、契約書の電子化を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
契約書に印鑑を押印する理由は?種類ごとの役割を解説
まずは、契約書類・社内文書に印鑑を押印する意味と、印鑑の種類ごとの役割について詳しく見ていきましょう。
印鑑の種類と意味
契約書への押印は「書面の内容を確認・承認・同意した」という意思表示のために行われます。
押印する印鑑の種類は契約書の内容や重要度によって異なり、主なものとして以下が挙げられます。
役割 | 効力 | 用途例 | |
---|---|---|---|
代表者印(会社実印) | 会社のトップが実印として使用する印鑑。登記の際に必ず届出を行う必要があり、法的・社会的な権利義務が発生する。 | ◎ | 株券発行・不動産取引・相続・連帯保証契約書・企業買収など |
役職印 | 部長・課長など、特定の役職を持つ人物が用いる印鑑。役職者の意思表示としての効力を持っている。 | ○ | 契約書・社内文書・社内決裁・稟議書など |
銀行印 | 銀行や金融機関に対して届出を行った印鑑のこと。法的効力は強くないものの、資金移動・管理に関わるため厳重な管理が必要。 | ○ | 口座開設・資金移動・小切手や手形の発行・保険や証券の契約書など |
会社印・角印 | 会社における認印の役割を持つ。印鑑証明書の添付までは求められない程度の契約書などで使用する。 | △ | 見積書・請求書・領収書・発注書・社内向けの通達文書など |
個人印 | 社員が個人で使用する印鑑のこと。朱肉を使う印鑑だけでなくシャチハタなども使用可能。法的効力はないものの、押印には責任が伴う。 | △ | 宅配便の受け取り・出勤簿・伝票など |
紙の契約書における印影の必要性
様々な場面で用いられる印鑑ですが、実は印鑑(印影)そのものに法的効力があるわけではありません。
契約成立においてカギとなるのは「双方の合意」であり、印鑑の押印はあくまでも合意の意思表示を“見える化”するための手段でしかないからです。
実際に、経済産業省のWebサイトには、印鑑の効力について以下のような記載がされています。
Q.契約書に押印をしなくても、法律違反にならないか。
・私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。
・特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。
しかしその一方で、民事訴訟法228条には以下のような記載もあります。
私文書は、本人[中略]の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する
つまり、印影の有無によって契約の効力が変わるわけではないものの、押印(または署名)があれば契約成立を証明するための証拠として使えるということです。
万が一、契約書に関する訴訟などが発生した場合、押印された契約書とされていない契約書では、押印された契約書の方が有利であると言えるでしょう。
電子契約書に電子印鑑は必要?
紙の契約書を電子化し、オンライン上で契約締結を行えるようにした仕組みを「電子契約」といいます。
続いて、電子契約の導入メリットと電子印鑑の必要性・法的効力の有無について詳しく見ていきましょう。
契約書を電子化するメリット
宅地建物売買等媒介契約書やマンション管理業務委託契約書など、法律で書面化が義務付けられている一部の契約書を除き、多くの文書については電子契約の利用が認められています。
以下は電子契約が可能とされる文書の一例です。
- 取引基本契約書
- 売買基本契約書
- 秘密保持契約書
- 債権譲渡契約書
- 投資契約書
- 家賃保証契約書
- 賃貸借契約書
- 代理店契約書
- フランチャイズ契約書
- 業務委託契約書
- 業務請負契約書
- 雇用契約書
- 発注書・請求書 など
これらの書類発行・契約締結業務が電子化された場合、企業側には以下のようなメリットが期待できます。
- 収入印紙・郵送代・作業に必要な人件費などのコスト削減
- 印刷・押印・郵送などの業務が不要になる(=業務効率化)
- オンライン上で文書を保管できるため省スペース化が可能
- 高セキュリティ下での管理によるコンプライアンス強化・BCP対策 など
またスマホやタブレットからの操作に対応している電子契約サービスも増えており、外出先でも簡単に契約書の確認・操作ができるという点もメリットの1つです。
電子印鑑に法的効力はある?必要性は?
電子印鑑の場合も通常の印鑑と同様、印影そのものが法的効力を持つということではありません。
とは言え、電子印鑑の押印された契約書であれば、契約成立や本人証明における証拠として使えるため、なるべく押印はあった方が良いでしょう。
また法的効力が認められている「電子署名」と組み合わせて活用するのもおすすめです。
電子署名とは電子化された契約書に付与される署名のことで、認証局から発行される「電子証明書」によって本人証明・データの非改ざん性の証明を行います。
法的効力を持つ電子署名と証拠能力を持つ電子印鑑を重ねて使用すれば、より効力の高い証拠として用いることができるでしょう。
電子印鑑に効力を持たせる方法とは
ここからは、本人証明の効力を持つ電子印鑑・持たない電子印鑑の違いを解説していきます。
また効力のある電子印鑑を作成できるおすすめの電子契約サービスも紹介しているので、導入時の参考にしてみてください。
電子印鑑の種類と無料画像を使用する場合のリスク
電子印鑑には主に以下の2種類があり、どちらを使用するかによって証拠能力に大きな差があります。
- フリーソフトや印影のスキャンなどを用いて印影を画像化した電子印鑑
- 印鑑に識別情報が含まれている電子印鑑
フリーソフトやExcelなどのツールで作成した電子印鑑、また普段使用している印鑑をスキャンしてデータ化したものについては、証拠能力がほとんどない点に注意が必要です。
これらはただの画像データであり、識別情報が記録されないことや、誰でも複製できてしまうといった理由から、効力は低いと考えられるためです。
またスキャンした印影を使用する場合は、盗用によって普段使用している印鑑にも影響が出るというデメリットもあります。
効力のある電子印鑑を作成できるおすすめサービス
本人証明の証拠として電子印鑑を活用するのであれば、有料の電子契約サービスの導入がおすすめです。
電子契約サービスでは、識別情報の組み込まれた電子印鑑の作成・使用および、電子署名の利用が可能です。
また契約の保管や検索・ワークフロー設定・閲覧制限の設定などセキュリティ対策も整っているので、契約書を電子化するうえで必須のサービスと言えるでしょう。
電子印鑑の作成や電子署名の機能が搭載された人気電子契約サービスとして、以下の3つをご紹介します。
Shachihata Cloud(シャチハタクラウド)
サービスの特徴 | 電子印鑑・捺印・文書回覧などの機能を備えた電子契約サービスです。普段使用している認印・日付印・会社印(角印・丸印)などを電子印鑑として利用することも可能。またビジネスプランでは立会人型による電子署名機能も使うことができます。 |
---|---|
月額料金(税込) | スタンダード版:110円/ビジネス版:330円 ※印面数あたり |
主な機能 | PDF変換(ワード・エクセル)・回覧ルート保存・ファイル保存・ファイル添付・二要素認証・電子署名・タイムスタンプ署名 など(※プランによって異なる) |
電子契約の仕組み | 電子印鑑の付与・立会人型による電子署名 |
モバイル対応 | ○ |
公式サイト | https://dstmp.shachihata.co.jp/ |
DocuSign(ドキュサイン)
サービスの特徴 | 日本版の独自機能として、電子印鑑の追加が可能なDocuSign Stamps(eHanko)機能が搭載されています。DocuSign内で新たに印影データを作成するか、または印影データをアップロードすることで利用可能です。印影に対する改ざん防止機能も付与されているため、電子署名との組み合わせにより高い効力を持たせることができます。 |
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月額料金(税込) | 10$~ |
主な機能 | 電子署名・リマインド通知・ブランド設定・コメント・支払い・資料添付・一括送信 など(※プランによって異なる) |
電子契約の仕組み | 立会人型による電子署名 |
モバイル対応 | ○ |
公式サイト | https://www.docusign.jp/ |
電子印鑑GMOサイン
サービスの特徴 | 立会人型による電子署名を行う「契約印タイプ」と、当事者型による電子署名を行う「実印タイプ」が搭載されたハイブリッドな電子契約サービスです。IPアドレス制限やワークフロー固定機能などの機能を利用できる「セキュリティ・内部統制パック」なども用意されており、コーポレートガバナンスの厳しい企業にもおすすめです。 |
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月額料金(税込) | 9,680円~(+1送信ごと110円~) |
主な機能 | 手書きサイン・長期署名/認定タイムスタンプ・アクセスコード認証・文書検索・閲覧制限・グループ管理・操作ログ管理 など(※プランによって異なる) |
電子契約の仕組み | 当事者型・立会人型による電子署名 ※当事者型の場合は相手の登録が必要 |
モバイル対応 | ○ |
公式サイト | https://www.gmosign.com/ |
まとめ
- 契約書に押印することで、契約内容の確認・承認・同意の意思表示を目に見える形で記録できる
- 印鑑も電子印鑑も印影自体には法的効力がないものの、押印があることで本人証明の証拠として活用できる
- 電子印鑑に効力を持たせたい場合は、識別情報の組み込まれた印鑑を作成できる有料の電子契約サービスがおすすめ
政府でもペーパーレス・脱ハンコ化に向けた法改正が進められており、今後契約書を電子化する企業は増加の一途をたどることが予想されます。
取引先から電子契約を依頼された場合でも慌てなくて済むよう、早い段階からシステム導入・移行を検討していくことをおすすめします。