政府が「脱ハンコ化」を推進している時代背景を受け、契約書なしで本人性や契約内容を証明する電子契約サービスが、急速に普及しています。
電子契約サービスの基礎知識を、ネットで調べている人も多いでしょう。しかし、断片的な情報しか載せていないサイトもあり、必要な答えに辿り着けないことも少なくありません。
もっと体系的に整理された知識を身につけるなら、ネットで無料情報を探すより、自分に合った書籍を購入するほうが早いです。
この記事では、電子契約サービスの導入を検討していて、電子契約に関する基礎的な知識を身につけたい企業人や個人事業主におすすめの本を、6冊ご紹介しています。
電子契約の基礎
導入のメリット
企業が電子契約システムを導入すると、契約締結の証として利用されてきた社印(角印)の管理から解放され、その労力を別の業務に割くことができます。
個人情報をシステム上に登録すれば、印鑑なしで本人確認を実施でき、オンライン端末だけで契約締結を進められます。よって、テレワーク環境下でも対応可能です。
また、紙の契約書を印刷・製本・郵送・保管する必要がなくなり、業務効率が向上します。
さらに、印紙税が免除され、契約の相手方へ契約書を郵送する費用も削減できるため、コストカットにも繋がります。
導入のデメリット
新たに電子契約を導入する場合、社内の従業員や社外の取引先に向けて、その法的論点や具体的な使い方について、十分に説明し、理解を求める必要があります。
電子契約の導入後は、本人確認方法がシステム上で完結し、便利になりますが、導入前の説明や周知の負担は見過ごせません。
これから電子契約を導入する方におすすめの本
以上、電子契約の基礎を踏まえた上で、より詳しく具体的に、体系的に整理されたかたちで学びたい方におすすめなのが、『電子契約導入ガイドブック』シリーズの本です。
①電子契約導入ガイドブック [国内契約編]
著者 | 高林 淳 |
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出版 | 商事法務 |
刊行 | 2020年8月 |
本の分量 | 192ページ |
税込価格 | 3,340円 |
企業に電子契約を新たに導入する際、そのわかりやすい手引きとなりうる本です。法人契約で電子署名を利用する現場において、多くの人が知りたい内容が、書籍の中にコンパクトにまとめられています。
著者は、米国ロースクールで法学修士(LL.M)の学位も取得している現役の法務企業人で、パナソニックやリーマンブラザーズなどを経て、双日株式会社の法務部に勤務しています。
【目次】
- Chapter 1 座談会 ――社内の課題にどう向き合うか
- Chapter 2 実務編 ――社内調整の進め方
- 解説 公開鍵暗号の仕組み
- Chapter 3 法律編 ――電子署名をめぐる法的論点と解説
- Chapter 4 税務編 ――電子帳簿保存法のポイント
②電子契約導入ガイドブック [海外契約編]
著者 | 佐々木 毅尚・久保 光太郎 |
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出版 | 商事法務 |
刊行 | 2020年10月 |
本の分量 | 264ページ |
税込価格 | 3,080円 |
特にグローバル展開を行う企業人にとっては必携の本といえるでしょう。
世界15の国と地域(中国・香港・台湾・韓国・シンガポール・フィリピン・タイ・マレーシア・インドネシア・ベトナム・インド・英国・米国・ドイツ・ブラジル)に関する電子契約の動向について触れている、実践的な内容です。特に米国の電子契約事情は、書籍の一章を割いて詳しく説明されています。
主要著者の佐々木毅尚氏は、企業のガバナンスやリスクマネジメント、コンプライアンスなどに関するスペシャリストです。大規模企業の法務畑を渡り歩いてきており、2021年7月からは、企業法務の業務効率化を支援するLegalForceの役員に転職しています。
【目次】
- Chapter 1 全体像をつかむ
- Chapter 2 各国の法制度
- Chapter 3 米国における法律と実務
- Chapter 4 EU法における電子契約
- Chapter 5 海外契約を巡る電子契約システムの現状
- Chapter 6 各国リスクの分析と判断――法務部長と弁護士の対話から
- Chapter 7〈座談会〉日系企業は海外契約で電子契約を導入できるか
企業実務の現場で便利な本
実際に電子契約を利用している現場において、困ったとき、すぐに役立ちそうな2冊の本をご紹介します。
③即実践! ! 電子契約 ―電子契約・DX・文書管理(文書の電子化)の導入から運用まですべてを体験できる
著者 | 高橋郁夫・北川祥一・斎藤綾・伊藤蔵人・丸山修平・星諒佑・西山諒・細井南見 |
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出版 | 日本加除出版 |
刊行 | 2020年8月 |
本の分量 | 372ページ |
税込価格 | 4,180円 |
自動車部品メーカーの法務部を舞台に、具体的なストーリーを追いながら電子契約導入の基本を学べるのが特徴的な本です。終盤で詳細なQ&Aも網羅している点でも情報が充実した書籍といえます。
主要著者の高橋郁夫氏は、ITに精通する弁護士として知られ、福島大学・宇都宮大学・奈良先端科学技術大学院大学で講師を歴任したこともあります。また、ITコンサルティング会社であるITリサーチ・アートを独自に立ち上げ、代表に就任しています。
【目次】
- 第1編 ストーリーで学ぶ実務
- 第1章 電子契約
- Scene 1 ブレインストーミング(電子契約の導入の端緒)
- Scene 2 そもそも電子契約とは
- Scene 3 プロジェクト初期:調査と評価
- Scene 4 電子契約導入チーム始動
- Scene 5 試験運用
- Scene 6 電子契約システムの本運用後
- Scene 7 取引先から急に「電子契約で締結したい」と言われた場合
- 第2章 文書情報管理
- Scene 8 文書情報管理システムプロジェクト始動
- Scene 9 文書情報管理システムの構築
- Scene 10 文書情報管理規程を作る
- 第2編 Q&A
④できるはんこレス入門 PDFと電子署名の基本が身に付く本
著者 | 清水理史・法林岳之・できるシリーズ編集部(編著) |
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出版 | インプレス |
刊行 | 2021年3月 |
本の分量 | 208ページ |
税込価格 | 1,848円 |
インプレス社で好評を集めている「できるシリーズ」書籍に、電子契約に関するガイドがラインナップに加わりました。クラウドサインなどの主要な電子書籍サービスの利用法が掲載されています。
この本の最も特徴的な点は、カラーの図解やイラストがふんだんに盛り込まれていて、直感的にわかりやすいこと。また、本に載っているQRコードをスマホでスキャンすれば、オリジナルの解説動画も視聴できます。
主要著者の清水理史氏は、テクニカル系のフリーランスライターで、コンピュータやネットワークに関する記事を数多く、雑誌やウェブ媒体に寄稿して活躍しています。
【目次】
- 第1章 はんこレスの基本を知ろう
- 第2章 PDFの閲覧と作成の方法を知ろう
- 第3章 ファイルをクラウドで共有しよう
- 第4章 有料版のAcrobat DCをはんこレスに役立てよう
- 第5章 電子署名を依頼しよう
- 第6章 依頼された書類に電子署名しよう
- 第7章 電子署名の状況を確認しよう
電子契約に関する法律を調べるなら
電子契約に関連する法律を体系的に知るには、企業法の実務にも精通する弁護士の本がおすすめです。
⑤3訂版 電子契約の教科書 ~基礎から導入事例まで~
著者 | 宮内 宏 |
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出版 | 日本法令 |
刊行 | 2021年1月 |
本の分量 | 188ページ |
税込価格 | 2,090円 |
2017年に初めて刊行された『電子契約の教科書』が、時代を追って内容の改訂を重ねています。今では、電子契約・電子署名・電子認証について知る上で、定番の本といえるでしょう。
第3版の本書では、総務省などが示したガイドラインをもとに、立会人型署名に関する政府見解について解説し、さらに電子契約をめぐる今後の動向について、著者が書き下ろしで加筆しています。書籍巻末には関係法令条文も掲載されています。
著者は東京大学の工学系大学院を修了後、理系畑の企業研究員から弁護士に転身し、IT問題専門の法律事務所を立ち上げています。
【目次】
- 1.電子契約とは
- 2.電子契約の基盤(1)―電子署名と電子署名法―
- 3.電子契約の基盤(2)―電子署名の技術的・法的詳細―
- 4.電子契約の導入の実務
- 5.電子契約と法規制
- 6.電子契約の普及
- 7.電子契約導入事例
⑥ゼロからわかる電子契約の実務
著者 | 鬼頭政人 |
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出版 | 中央経済社 |
刊行 | 2021/2/9 |
本の分量 | 272ページ |
税込価格 | 3,520円 |
「ゼロからわかる」の名の通り、予備知識のない段階からでも、深い見識を身につけられる本です。
前半、第1章~3章では法律面の基礎知識を解説し、後半、第4章~7章では、電子契約の技術面を踏まえた上で、導入に関する実践的ノウハウを提示しています。
電子契約に関して、理論面と実務面の両方に精通する著者ならではの構成といえるでしょう。
著者は、弁護士として稼働後に、ベンチャー企業を支援する投資ファンドに転職し、自身でも、資格試験対策のオンラインスクール『資格スクエア』を創業するなど、実業家としての一面もあります。また、独自の電子契約サービス「NINJA SIGN」の立ち上げにも関わりました。
【目次】
- 第1章 電子契約とは何者?
- 第2章 電子契約って有効なの? 〜実体法上の基礎知識〜
- 第3章 電子契約は裁判で証明できるのか? 〜訴訟法上の基礎知識〜
- 第4章 電子契約を支える技術的基盤
- 第5章 電子契約導入の5ステップと社内の説得手法
- 第6章 電子契約導入にあたってよくある質問
- 第7章 電子契約の未来
まとめ
電子書籍サービスについて調べている方の中でも、法律を知りたいのか、導入方法や使い方が知りたいのか、個々に異なるものです。
そこで、以上のような本を目的別に購入して、読み込むことが推奨されます。ネットで検索するよりも、書籍のほうが早く問題解決に至ることも多いでしょう。ぜひ、お気に入りの本を見つけてみてください。