現代では様々なオンラインサービスや電子化技術が、花盛りで展開されています。
それに伴い、電子契約サービスが注目されていまずが、電子契約と聞いて「かなり大きな取引だし、ちゃんと事前に契約書を作っていないと、後で揉めたときに大変じゃないだろうか?」「今までずっと、紙の契約書に印鑑を押してきたのに、オンラインで法的効力があるのなら、今までやってきたことは何だったんだ?」と、少し躊躇してしまう方もいるのではないでしょうか。
そう考えてしまう気持ちも、よくわかります。
この記事では、ビジネスで電子契約サービスを利用したとき、契約書と同じような法的効力が発生するのかどうか、わかりやすく解説しています。
ほとんどの場合、契約書がなくても法的効力がある
まず、知っておいていただきたいのが、2020年4月に改正されたばかりの新しい民法522条です。
◆ 民法 第522条
- 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(※中略)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
- 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
つまり、「契約書がなくても、当事者の間で申し込みと承諾が合致していれば、契約の法的効力がある」と言っているのです。この場合、契約書は、契約が成立した事実を他の人にも証明できる「証拠」としての役割を果たします。
このルールは、何も2020年から新たに始まったわけではなく、当然の前提として今までの民法にはハッキリと書かれていなかったにすぎません。
「契約は、口約束だけで成立し、法的効力が生じる」という話、聞いたことありませんか?
たとえば、スーパーやコンビニで食品などの買い物をするときには、いちいち売買の契約書を作成して印鑑を押したりしませんよね。客がレジに商品を持っていった時点で、売買契約の法的効力が生じています。店の「売りたい」という申し込みと、客の「買いたい」という承諾が合致しているからです。
この場合、レシートが売買の証明(法的効力)となります。
もちろん、市場や屋台のように、売り手からレシートが発行されなくても契約は法的効力を持ちます。これを「契約方式自由の原則」といいます。
ただ、契約の種類によっては、法的効力を証明するために、必ず契約書を作成しなければならないものもあります<>。詳しくは、この記事の最後で述べます。
そもそも、電子契約サービスとは?メリット・デメリットを紹介
近ごろ注目されている電子契約サービスとは、紙の契約書を作らなくても、オンラインで、しかも印鑑を押さずにデジタルデータだけで完結できる「電子署名」のことを意味しています。
つまり、電子契約サービスを使うだけで、署名捺印をした紙の契約書と同じような、証拠としての法的効力を持たせようというものなのです。
特に、2020年から新型コロナウイルス(covid-19)による感染拡大が起きているご時世においては、契約当事者が直接会わなくても契約書を結べる電子契約サービスの需要が高まってきています。
コロナ禍で、ある社員が自宅でテレワークを進めていたのに、上司の指示で「取引先との契約書に記名押印をするために、感染リスクを負って出社しなければならない」という笑い話(はんこ出社)が、皮肉な意味合いを含むかたちで広まっていました。
契約書への署名捺印という日本の商慣習のせいで、社員の感染リスクが高まってしまいます。それだけでなく、契約書の印刷・製本・郵送の負担も含めた労働生産性にも悪影響を及ぼしています。
その点、電子契約サービスを用いれば、これらの問題を一挙に解決できるメリットがあります。
ただし、気になるのは、電子契約サービスに、契約書と同じような証拠としての法的効力が発生するのかどうかです。
一般的な契約書に、契約当事者による署名捺印(法人の記名押印)が求められていたのは、その人のサインとハンコがあることで、確かに当事者本人が契約を認めたらしいということを推定させる機能がある(否定したければ、反対の証拠を示す必要がある)からです。
加えて、契約当事者による署名捺印(法人の記名押印)が、確かに本人によるものであり、他人によって偽造された物ではないことを推定させる機能もあります。
つまり、同じような機能が電子契約サービスにも備わっていなければ、法的効力のある証拠として使い物になりません。
電子契約サービスのメリット・デメリット
電子契約における送付・保存といった事務処理の方法は、印紙税や印刷・製本・郵送などのコストがかかる郵送での書面契約と大きく異なり、オンライン上でやり取りを行いサーバにデータを保管します。
紙を利用しない電子契約には、以下のようなメリット・デメリットがあります。
メリット | デメリット |
---|---|
印紙税、郵送料などのコスト削減 | 取引先に電子契約サービスへの理解を求める必要がある |
業務の効率化 | 当事者型タイプの契約を行う場合は電子証明書が必要 |
保管スペースが不要に | 社内の既存業務フローの変更を伴う |
契約書の改ざんを防ぎコンプライアンス強化 | サイバー攻撃を受ける可能性がある |
また「法的効力」について、電子契約が有効な領域は少しずつ広がってきています。
多くの契約において電子契約の法的効力が認められていますが、定期建物賃貸借契約や定期借地契約など、紙面での交付を義務づけられている一部の契約もあります。電子契約についての今後の法律改正に注意しておく必要があるでしょう。
現在(2021年8月31日)において、電子契約が法的効力を持つものと、電子契約が法的効力を持たず紙の契約書が必須であるものについては後ほど詳しく紹介します。
法的効力の元となる本人認証機能(電子証明書・タイムスタンプ)
電子契約サービスには、紙の契約書での署名捺印をはるかに超える精度の「本人認証機能」が組み込まれています。
その根拠は「電子署名法」という法律(正式名称:電子署名及び認証業務に関する法律)にあります。
電子契約サービスがデジタルデータに行う電子署名には、認証局による「特定認証業務」が義務づけられています(電子証明書)。
特定認証業務では、オンラインで他人に破られることがほぼ不可能なRSA暗号技術などを採用しなければならないほか、そのデータ管理も、外部からの不正アクセスや停電・地震・火災・水害などのリスクを十分に回避できる設計にしていなければなりません。
加えて、タイムスタンプ機能によって電子署名の時刻も公に証明されるため、その時刻以降に契約内容が書き換えられたならば、「他者による不正な書き換え(改ざん)」が行われたのではないかと、その可能性を検出することもできます。
つまり、電子契約サービスでは、認証局が間に立って、そのオンライン契約を当事者が認めていると裏付けているのです。だからこそ、むしろ、紙の契約書に署名捺印・記名押印した場合と比べても、より「間違いない」といえるため、法的効力を生じさせるのも正当化されるのです。
しかも、「契約方式自由の原則」がありますから、紙の契約書よりも証明力が高い電子契約サービス(電子署名)を、有効な証拠として認めない理由はありません。
よって、電子契約サービスにも、契約書と同じく有効な証拠として法的効力が認められています。
電子署名法の第3条で「電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(※中略)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(※中略)が行われているときは、真正に成立したものと推定する」と定められているのが、その根拠です。
ですから、電子契約サービスを利用する前に、その提供企業が、確かに認証局として総務省から正式に認められている業者と連携しているのかどうか、念のために確認しておきましょう。
総務省 電子署名及び認証業務に関する法律に基づく認定認証業務一覧
現在では、仮想通貨ビットコインなどの基幹技術となっている「ブロックチェーン」も注目されています。ブロックチェーンを使えば、ある契約を世界中のコンピュータで相互に認証することが可能になりますので、認証局がなくても電子契約の法的効力を発生させられるようになるでしょう。
電子契約が法的効力を持つものと、紙の契約書が必須であるもの
契約は口約束でも法的効力が発生するのが原則で、契約書はその証拠だということは既に説明しました。
ただし、例外的に、契約書の作成までしなければ法的効力が生じない契約もあります。
たとえば、契約を結ぶことによって、下手をすると一方の当事者に大きな損害やデメリットが生じかねない場合には、その人を保護する観点から、必ず契約内容を書面にして、しっかりと確認してもらわなければならないのです。
法的効力を発生させるため例外的に、契約書が必須となるものは次の通りです。それぞれ、契約書の電子化が可能かどうかも解説しています。
電子契約が認められるもの
紙の契約書が必須でなく、電子契約が法的効力を持つものは以下のとおりです。
保証契約・連帯保証契約
民法446条により、契約書を作成しなければ、法的効力が生じないと定められています。
ただし、電子契約による保証契約でも法的効力が生じ、有効なものとして運用されています。
建設工事の請負契約
建設工事の請負契約では、工事内容・請負代金・着工期などを記載した契約書を作成しなければ法的効力が生じないと法律で定められていますが、電子契約も可能です。
労働者派遣の個別契約
派遣元企業と派遣先企業の間で締結される労働者派遣契約では、契約書を作成しなければ法的効力が生じません。長い間、電子契約は認められていませんでしたが、法改正により2021年1月から解禁となり、法的効力が認められています。
電子化が認められないもの(紙の契約書が必須の場合)
紙の契約書が必須であるため、電子契約が法的効力を持たないものは以下の通りです。
一部の賃貸借契約
普通の賃貸借契約(マンションの部屋を借りる場合など)であれば、契約書は必須ではありません。電子契約も認められます。
ただし、「事業用定期借地権」「存続期間50年以上の定期借地権」「更新のない定期建物賃貸借」の場合は、裁判官などの公職を引退した公証人に依頼して、公正証書のかたちで契約書を作成しなければ法的効力が生じません。ですから、電子契約サービスの利用は認められていません。
また、農地の賃貸借も、存続期間・賃借料の額・支払い条件などを明記した契約書を作成しなければ法的効力が生じません。これも電子契約は認められていません。
任意後見契約
認知症や精神疾患などの影響で、正常な判断ができなくなった方の財産を守る任意後見人に就任する契約は、公正証書のかたちで契約書を作成しなければ法的効力が生じません。これも電子契約が認められる予定はありません。
賃貸借契約の重要事項説明書
賃貸借の契約書そのものではありませんが、いわゆる「事故物件」であったり、今後、住環境が大きく変わる都市計画が周辺で行われたりする予定の物件などでは、契約の前に書面でしっかりと説明しなければなりません。
なお、この重要事項説明書は、将来的に紙の書面だけでなく電子化が法的効力を持つものとして認められる方針で、2021年時点では国が社会実験を進めています。
まとめ
いかがだったでしょうか。今回は電子契約における法的効力について詳しく解説しました。現在は電子契約法によりかなりの範囲で法的効力が認められています。
ただ、紙の契約書が必須であるため、電子契約が法的効力を持たないものもあるので注意が必要です。
これまで契約を行う上で手間や印紙税の負担にお悩みの方はDocuSign(ドキュサイン)やクラウドサインなどぜひ一度電子契約サービス導入を検討してみてはいかがでしょうか。