契約書や領収書を作成する際は、金額に応じて「収入印紙」と呼ばれる税金を納める必要があります。
ところが電子契約の場合、同様の内容であっても収入印紙を貼らなくて良いとされているのです。
この記事では、収入印紙の基本知識と、電子契約の場合に納税が不要となる理由について解説していきます。
収入印紙(印紙税)の概要
印紙税とは、経済取引などに伴って契約書や領収書といった文書を作成したときに課税される税金のことです。
そしてこの印紙税を納付する際、課税文書に対して貼り付ける証票のことを収入印紙といいます。
まずは、収入印紙という仕組みの起源や、文書ごとの税額・納付方法などの基本知識を確認していきましょう。
収入印紙の始まり
印紙税の徴収は、1624年にオランダで誕生したといわれています。
当時、オランダはスペインと戦争をしており、戦費調達の手段の1つとして文書への課税が行われたのです。
その後、ヨーロッパをはじめ世界中へと印紙税の仕組みが広がり、日本では1873年に導入されました。
収入印紙の税額と納付方法
収入印紙が必要となる文書には以下のようなものがあります。
- 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書(不動産売買契約書、不動産交換契約書、不動産売渡証書など)
- 地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書(土地賃貸借契約書、土地賃料変更契約書など)
- 消費貸借に関する契約書(金銭借用証書、金銭消費貸借契約書など)
- 運送に関する契約書(運送契約書、貨物運送引受書など)
- 請負に関する契約書(工事請負契約書、工事注文請書、物品加工注文請書、広告契約書、映画俳優専属契約書、請負金額変更契約書など) など
これらの文書にかかる印紙税額は以下の通りです。(不動産売買契約書の場合)
契約書に記載されている金額 | 印紙税額 |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
10万円以下 | 200円 |
10万円を超え50万円以下 | 400円 |
50万円を超え100万円以下 | 1千円 |
100万円を超え500万円以下 | 2千円 |
500万円を超え1千万円以下 | 1万円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
印紙税額は文書によって異なるため、詳しくは国税庁のホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/inshi301.htm)をご参照ください。
印紙税の納付方法は複数あり、通常は課税文書へ収入印紙を貼り付けることで納付を行います。
収入印紙を貼る場所に決まりはありませんが、契約書の表紙(または1枚目)の左上に貼るのが一般的です。
収入印紙を貼ったあとは、印紙の再利用を防止するために消印を押す必要があります。(署名でも可)
また課税文書の数が多い場合は、税務署で文書に税印を押してもらう方法を利用することも可能です。
この場合は印紙税をあらかじめ金銭で納付し、その後税印を押してもらう流れとなります。
なおこの方法では税印押なつ機を用いるため、専用の機械が設置されている税務署でないと対応できない点に注意が必要です。
印紙税がかからないケース
契約書を各当事者が1通ずつ保有するために、同じ文書を2通またはそれ以上作成するケースがあります。
この場合、それぞれが契約の成立を証明する目的で作成された文書である場合は、全て課税対象となります。
一方、署名押印された契約書をコピー・スキャンしたものや、ファックス・電子メールにより送付先で出力された文書などは課税されません。
ただしコピーしたものに対して署名押印を行った場合は印紙税の対象となるので注意しましょう。
なお、本来印紙税が必要となる文書に収入印紙を貼り忘れた場合、過怠税(かたいぜい)として通常の3倍の税金を支払わなければなりません。(自己申告した場合は1.1倍)
誤って収入印紙を貼らずに文書を交付してしまった場合には、速やかに税務署へ申告を行いましょう。
電子契約なら収入印紙が不要!その理由は?
印紙税がかからないもう1つのケースとして、電子契約による文書の交付があります。
続いて、電子契約の場合に印紙税がかからない理由について、政府見解を基にしながら見ていきましょう。
印紙税法の解釈
印紙税法では、以下の3つに該当する文書に対して課税を行うと定められています。
(1) 印紙税法別表第1(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証されるべき事項(課税事項)が記載されていること
(2) 当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること。
(3) 印紙税法第5条(非課税文書)の規定により印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと。
またこれらの文書における「作成」の定義として、以下のように記されています。
法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。
ポイントは、定義文の中に「課税文書となるべき用紙等」という表記がある点です。
このことから、課税対象となる文書は紙の契約書であり、かつ当事者の同意を示すための署名押印がなされているものと考えられ、電子契約は対象にならないと解釈できます。
国税庁の印紙税に関する事前照会への見解
国税庁のホームページに「請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について」の見解が示されています。
以下は見解の一部を抜粋したものです。
注文請書の調製行為を行ったとしても、注文請書の現物の交付がなされない以上、たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならないから、印紙税の課税原因は発生しないものと考える。
つまり、電子文書(電磁的記録)の場合は原本を交付したとは言えず、課税文書の作成にはあたらないことから、印紙税を納付しなくて良いと解釈できるのです。
参議院質疑での印紙税に関する答弁
平成17年3月の国会において、当時の小泉純一郎首相は参議院議員からの質問に対して以下のように答弁を行っています。
事務処理の機械化や電子商取引の進展等により、これまで専ら文書により作成されてきたものが電磁的記録により作成されるいわゆるペーパーレス化が進展しつつあるが、文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。
このように、国税庁および政府の見解として、電子契約による文書は印紙税の課税対象にならないことが示されています。
電子契約の導入によるメリット
電子契約を導入して収入印紙が不要になると、印紙代の節約や業務効率化といったメリットが得られます。
最後に、電子契約の導入による2つのメリットについて詳しく見ていきましょう。
収入印紙代の削減
電子契約に移行して収入印紙が不要になると、これまで収入印紙代として納めていた税金をカットすることができます。
1件あたりの収入印紙は数百円程度であっても、年間で計算すれば大きな金額になります。
契約金額によっては収入印紙だけで数十万円かかるケースもあるため、電子契約の導入で収入印紙代を節約できれば大きなコストダウンが期待できるでしょう。
また電子契約に移行することで、文書の印刷代・インク代・製本代・郵送代といった費用もカット可能です。
これらの業務に伴う人件費も抑えられるため、電子契約はコスト面でのメリットが大きいツールといえるでしょう。
業務効率化
電子契約に移行すると、コスト削減と合わせて業務の短縮・効率化も期待できます。
カットできる業務フローとして、課税文書の判定・収入印紙の購入と貼り付け・文書への捺印・文書の郵送などが挙げられます。
電子契約の導入でハンコや書類の印刷が不要になることで、例えばリモートワーク・在宅勤務をしている社員であっても、契約業務に携わることが可能です。
まとめ
- 経済取引などに伴って作成された契約書や領収書にかかる税金を印紙税、印紙税を納める証票を収入印紙という
- 印紙税がかかるのは紙の文書のみであり、電子契約によって交付された文書は課税の対象外となる
- 電子契約を導入することで、収入印紙代の削減や業務効率化といったメリットを期待できる
1件あたりの契約金額が大きい企業では、収入印紙にかかるコストも高額になります。
電子契約を活用すれば印紙税を大幅に節約できる他、業務効率化などにもつながるため、ぜひ導入を検討してみてください。