電子契約や電子署名は、PDFのようなデジタルデータに本人認証や偽造防止などの技術を組み合わせることによって、記名押印のある契約書と同等以上の証明力を持たせる技術です。
電子契約サービスの市場規模は、2020年の統計で100億円を突破しました(ITR Market View調べ)。しかも、過去3年間で5倍以上に拡大しており、日本国内で急速に普及しています。
また、JIPDEC(日本情報経済社会推進協会)の調べによれば、2020年時点で、すでに電子契約システムを導入している企業(従業員数50名以上の規模)が43.3%を占めています。
日本のような「ハンコ文化」が伝統的に根強く定着している国で、印鑑を不要とする電子契約が普及しつつある現代は、商慣習の革命的な転換期だといえるでしょう。
ペーパーレスの電子契約を採用することによって、会社の実印などを適切に管理する手間や、契約書を印刷・製本して、契約の相手方に郵送する事務処理を省略できます。
そのため、電子契約が普及することによって、国際比較で低水準といわれる日本国内の労働生産性が向上するものと期待されています。
特に、テレワークの事務環境下では、契約書の作成業務が困難になっています。コンプライアンスやセキュリティの観点で、社印をオフィス以外の場所で使用することが不適切であり、原則として社外に持ち出せないからです。
これが電子契約であれば、テレワークの環境下でも手軽に契約書を発行できるメリットがあります。
オフィス内で総務や法務に携わる従業員にとっても、契約書に関する事務処理の負担が大幅に軽くなります。
また、契約書を電子的に管理すれば、締結済みの契約書ファイルをオフィス内に保管する必要もなくなります。電子契約サービスの導入によって、今までは契約書保存用に確保していたオフィスの空間を、別の目的に有効活用できるようになるのです。
さらに、郵送にかかる切手代や、契約書に添付する印紙代を省略できることにより、経費節減を実現できる点もまた、電子契約を導入するメリットのひとつです。
契約書1件ごとに削減できる経費の額は小さいかもしれません。しかし、契約書の発行件数が多い企業ほど「ちりも積もれば山となる」で、電子契約を導入するメリットは大きくなるのです。
電子契約のセミナーが開催される場面
電子契約は、社会的にみて導入や普及が始まったばかりの技術です。「電子契約によって印鑑が要らなくなる」ことぐらいは認識している社会人が多いでしょう。しかし、電子契約に関する詳しい話や注意点、具体的な使い方については、まだよく知らない人が大半なのです。
そこで、電子契約の概要や詳細について、講義形式などで説明するセミナーが開催される例が増えています。
このような電子契約セミナーでは、参加者に対して、ビジネスシーンで電子契約を採用することのメリットや注意点、使用方法などを解説しています。
初心者向けには、電子契約システムの実際の使い方を重点的に説明する例が多いです。また、電子契約の法的な意味や技術的な背景などにまで深く入り込んで解説するセミナーも珍しくありません。
電子契約についてのセミナーが開催される場面としては、大きく分けて2種類があります。
ひとつは、電子契約のシステム、サービスを提供している事業者が、企業の経営者や事務担当者に向けて実施するセミナーです。
もうひとつが、電子契約のシステムをこれから導入しようとしている企業が、社内の従業員や、社外の取引先などに向けて実施するセミナーです。
いずれのセミナーも、無料で開催されることがほとんどです。
電子契約サービスの提供事業者が開催する場合
このタイプの電子契約セミナーは、電子契約システムを構築・販売している企業にとっての「営業」「勧誘」が目的となっています。無料で開催することによって、参加の敷居を下げるオープンなセミナーです。
この種のセミナーは、電子契約の提供事業者が、単独で開催することもあれば、法律事務所と連携して、弁護士が講師として登壇するケースもあります。
たとえば『電子契約の法的な有効性』をテーマにして、その概要を弁護士が解説する形式のセミナーにすれば、電子契約を普及させる社会的な意義を前面に出して、営業・勧誘の雰囲気を薄めることができます。
電子契約サービスの提供企業が主催するセミナーが、おもな参加者として想定しているのは、決裁権を持っている企業の経営者でしょう。ただ、複数の電子契約サービスを比較検討するため、経営者から指示を受けた役員や従業員がセミナーに参加していることもあります。
セミナーの場だけで、即座に電子契約サービスの導入決定にまで至るケースは少ないです。ほとんどの場合は、電子契約提供事業者が、電子契約に関心のある企業と接点を持つきっかけ作りの場として、無料セミナーが活用されます。
セミナー開催後は、営業担当者がセミナー参加者に対して、電子契約の導入を検討するにあたっての懸念点を具体的に聞き取りながら、その懸念を拭い去るため、さらに時間をかけて丁寧に説明していく必要があります。
契約書を電子化しようとする企業が開催する場合
企業の関係者のみに参加が限定された、クローズドの電子契約セミナーが開かれることもあります。
この種のセミナーには、これから電子契約システムを実際に導入しようとする企業が、導入に関する理解を広く求め、具体的な使い方をレクチャーする目的があります。
場面別では、社内の役員や従業員を対象にして開催するセミナーと、社外の取引先や得意先を対象として開催するセミナーとがあります。
社内向けセミナー
電子契約システムを実際に使うことが多いのは、一般に、総務や法務、経理などのバックオフィス部門と、営業部スタッフです。
これらのセクションに所属する従業員を対象にして、電子契約システムの導入前に、実際の使い方に関する説明を中心とした「社内向けセミナー」を開催することが推奨されます。
実際の電子契約システムの使い方に関する説明では、「難しそう」という先入観を払拭するよう、詳細な操作方法にまで立ち入らず、現場で最低限必要な機能に絞って伝えることが重要です。
セミナーの場では、口頭や文章による説明だけでなく、操作画面と合わせてステップごとに分けて解説すると、難しそうな印象を和らげることができるでしょう。
特に、従来型の署名捺印による契約書を作成することで長年慣れているベテランの従業員や、ITを苦手とする従業員のレベルに合わせて説明することが重要となります。
セミナーの現場では、こうした従業員が、電子契約に対する抵抗感を覚えさせないよう、簡単に使える点を強調しましょう。
「面倒なことをしなくても、今までどおり、印鑑を使えばいいじゃないか」などと不満を抱かせてしまえば、電子契約の導入にあたって黄信号が点灯してしまうからです。
さらに、使い方だけでなく、数ある電子契約システムの中から、そのシステムを選択して自社が採用した理由や経緯について丁寧に説明し、参加者の理解を求める場合もあります。
こうした社内セミナーは、たとえば総務部などが主催し、従業員を集めて行う場合が多いでしょう。
場合によっては、顧問弁護士など専門家の協力や監修を受けながら、電子契約書も法的に有効で、サインや印鑑よりも証明力が高いことなど、法律的な側面に関してもプレゼンテーションを行います。
ただし、従業員同士で内々で実施するセミナーでは、やや緊張感に欠けることもあるため、外部から講師を招くとより効果的です。可能であれば弁護士自身がセミナーに登壇できると、権威性や説得力が増すでしょう。
加えて、情報セキュリティの側面でも安心できる点を強調すると、より社内からの理解も得られやすいです。
比較的高額なプランを選択した大口の企業であれば、電子契約サービスの提供事業者が直接、従業員に向けて説明をしてくれることもありえます。
セミナーの開催後は、数か月間の試用期間を設けて、電子契約の導入によって自社でどのような支障や課題が生じるか、具体的に洗い出すことが推奨されます。
そうして、試用期間に生じた問題点をクリアにしてから、本格的な導入へと移行します。
社外向けセミナー
契約の相手方として重要な取引先に対しても、電子契約サービスの導入前に、必要に応じて、説明会・セミナーを開催することがあります。
たとえば、電子契約を導入する企業のクライアントや下請先などの関係者が参加する社外向けセミナーです。
ただ、どの企業の中にも、それなりにITに強い人材はいるはずです。よって、社外向けの電子契約セミナーを開くまでもなく「このような電子契約を導入します」という一報を入れれば十分な場合も多いです。
社外向けセミナーが特に必要となるのは、日本の「ハンコ文化」に慣れていて、電子契約の新たな導入に抵抗感を抱きそうな取引先でしょう。
このような取引先に対しては、電子契約をややこしいと感じさせて、今後の契約関係に悪影響を及ぼさないよう、社内向けセミナーと同じく、基本的な操作が決して難しくない事実を丁寧に伝えることが重要です。