「電子帳簿保存法は宥恕措置が公表されているけれど、2024年以降はどうなるの?」
と疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。
2022年1月に電子帳簿保存法は改正されたものの、一部要件の改正に対して、対応が難しかった企業が多く存在したことから、一部法要件に対する2年間の宥恕措置(対応期間の延長)が公表されています。
また、この宥恕措置に対して、2022年1月に税制改正大綱上で2024年1月以降の対応方針が公表されていますので確認が必要です。
当記事では、2022年1月に改正された電子帳簿保存法の概要や、2022年12月に税制改正大綱上で公表された2024年1月以降の電子帳簿保存法の改正内容、2年間の猶予期間の過ごし方について解説します。
2022年1月に電子帳簿保存法が改正された
電子帳簿保存法とは、電子的に帳簿や書類を保存してもよいと認めた法律です。1998年に施行されてから、世間のペーパレス化を促進するために要望に応じて法改正を繰り返してきています。
電子帳簿保存法は2022年1月にも改正法が施行され、以下4つの要件区分で、届出書の申請が不要になるなど、要件緩和が目立ちました。
- 国税関係帳簿(帳簿保存の区分)
- 決算関係書類などの国税関係書類(書類保存の区分)
- データ化した書類(スキャナ保存の区分)
- 電子取引で授受した電子データ(電子取引保存の区分)
2022年1月以降電子取引文書は電子保存が義務化された
電子帳簿保存法全体で要件緩和が目立ったものの、一部要件では担保措置と呼ばれるような法改正も実施されています。その要件とは電子帳簿保存法 電子取引要件です。
そもそも、電子帳簿保存法 電子取引要件では2022年1月の改正以前でも、電子的にやり取りをした取引関係書類は原則的に電子的に保存する必要があるとしてきました。
しかし、特例的に電子取引した文書を書面出力して保存することでも要件を満たすことができると整理してきたのです。しかし、2022年1月からの改正電子帳簿保存法では、この紙保存による対応を廃止しています。
つまり、電子帳簿保存法上で電子取引した文書は必ず電子保存する必要が出てきたのです。
対応できる企業が少なかったことから宥恕措置が実施されている
しかし、2021年12月の改正直前の時点で、電子帳簿保存法 電子取引要件における紙保存措置廃止に対応ができる企業は少なかったようです。
この事態を重く見た国税庁は、同月の税制改正大綱上で、紙保存措置廃止について2年間の宥恕措置(猶予期間を設ける)を公表しています。
宥恕措置とは、2022年1月以前まで通り、電子取引した文書を書面出力して保存していれば、要件を満たしているとみなす期間を2022年1月から2023年12月まで延長し猶予期間を設ける措置です。
したがって、電子帳簿保存法 電子取引要件対応をするための猶予期間が設けられたことになっています。
2024年以降の猶予措置方針も明らかになった
2022年12月まで2年間、電子帳簿保存法 電子取引要件に対して対応期間に猶予ができました。ここで気になるのは猶予期間後の2024年1月以降の対応方針です。
2022年12月に税制改正大綱が公表されている
税制は国民生活に直接影響を与えるため、毎年12月に見直しを実施しています。与党の税制調査会が中心となって、各省庁からあげられる税制改正の要望をもとに翌年度以降の税制改正方針を決めているのです。これを税制改正大綱と呼んでいます。
2022年においても12月に税制改正大綱が公表されています。ただし、12月に公表された改正内容はあくまで方針ですので、本決定は例年3月の国会決議で実施されている点に留意ください。
電子帳簿保存法の2024年以降の改正方針も明らかになった
電子帳簿保存法の2024年1月以降の改正方針についても、2022年12月の税制改正大綱上に含まれていました。今回、改正方針が示された電子帳簿保存法の要件区分は以下の通りです。
- 国税関係帳簿(帳簿保存の区分)
- データ化した書類(スキャナ保存の区分)
- 電子取引で授受した電子データ(電子取引保存の区分)
2024年以降の電子帳簿保存法の改正内容
以下では2022年12月に公表された税制改正大綱の内容をもとに、2024年1月以降の電子帳簿保存法改正方針をご紹介します。
改正①:書面保存対応には猶予措置が公表された
2022年1月から2023年12月までの2年間の猶予期間(宥恕措置)を設けられていた電子帳簿保存法 電子取引要件における紙保存措置廃止ですが、予定通り、2023年12月で措置は廃止される予定です。
一方で2024年以降は猶予措置が施行されます。宥恕措置から猶予措置に変更ということで、なんだか言葉遊びのような印象を受ける方も多いかと思いますが、猶予措置の内容は宥恕措置と異なるため確認が必要でしょう。
猶予措置では2024年1月以降、以下の条件を満たすことで、引き続き電子取引した文書を書面出力することによって対応が可能になります。
- 保存要件を満たして保存できない相当な理由(やむを得ない事情)があると税務署長から認められる
- 電磁的記録のダウンロードの求めに応じる
- 電磁的記録の出力書面の提示、または、提出ができる
しかし、ここで条件の一つである「相当な理由」とは何か、明確に提示されていない点に注意が必要です。
つまり、現段階では自社が相当な理由に該当するか判断ができませんので、現状、電子帳簿保存法 電子取引要件対応を進めているのであれば、引き続き進めた方がよいでしょう。
改正②:スキャナ保存要件が大幅に緩和された
今回の税制改正大綱の公表で電子帳簿保存法 電子取引要件における猶予措置ばかりに注目が集まっていますが、実は最も大きな改正があったのが電子帳簿保存法 スキャナ保存要件です。
電子帳簿保存法 スキャナ保存要件とは書面を電子化して保存する際の保存要件です。この電子帳簿保存法 スキャナ保存要件について、2024年1月以降は以下の要件が廃止されます。
- 入力者等情報の確認
- 解像度、諧調情報、大きさ情報の保存
- 一般書類に対するスキャナ文書と帳簿との相互関連性の確認
特に電子帳簿保存法 スキャナ保存要件の改正後にインパクトが大きいのが「スキャナ文書と帳簿との相互関連性の確認」です。相互関連性では、電子化した文書と帳簿を一意のキーで紐づける必要があります。
しかし、一般書類の中でも見積書や注文書などの文書は授受したタイミングで帳簿上にレコードがありませんので、相互関連性を満たすことが難しかったのです。
この点、2024年1月の電子帳簿保存法の改正以降では、見積書や注文書などの一般書類について、相互関連性を満たす必要がなくなりますので、電子化可能な文書の幅が広がり、電子帳簿保存法 スキャナ保存要件対応をする意味合いが深まると考えられています。
改正③:優良帳簿への対応がしやすくなった
電子帳簿保存法の国税関係帳簿保存についての要件も、2024年1月以降に要件緩和されます。そもそも、国税関係帳簿保存の要件区分では国税関係帳簿を以下2パターンに分けて法要件を整理していました。
- 優良帳簿
- 優良帳簿以外の帳簿
優良帳簿の法要件の方が厳しく、対応の難易度が高いです。しかし、優良帳簿として申請手続きをすることで、もし、修正申告または更生があった際に過少申告加算税の金額を5%分免除して納付することができるメリットを得られます。
とはいえ、改正前までは優良帳簿として対応するためには高いハードルがありました。なぜなら、優良帳簿として対応するためには、企業で管理するすべての帳簿について電子化対応をする必要があったからです。
多くの企業では固定資産台帳などはExcel台帳などで管理する場合もあり、すべての帳簿を電子化して対応するのには限度があったのです。
しかし、2024年1月以降には優良帳簿をするための帳簿の範囲が明確化・限定化されますので、対応がしやすくなります。以下が優良帳簿に対応する際に要件を満たす必要のある帳簿です。
- 仕訳帳
- 総勘定元帳
- 以下の事項に係る帳簿
・手形
・売掛金
・買掛金
・有価証券
・減価償却資産に関する事項
・繰り延べ資産に関する事項
・売上
・仕入れその他経費または費用
引き続き電子取引対応をするのが吉
電子帳簿保存法 電子取引要件対応は2024年1月以降も必要になる見込みですので、早期に対応準備を進めましょう。
2023年10月施行のインボイス制度を目安に計画を立てよう
遅くても猶予措置が始まる2024年1月までに電子帳簿保存法 電子取引要件対応をする必要がありますが、計画を立てるタイミングで勘案が必要な制度があります。それがインボイス制度です。
インボイス制度とは、2023年10月以降、適格請求書発行事業者が発行した適格請求書を受領しなければ、仕入税額控除ができない制度です。この制度に対応するためには、売手側・買手側双方で準備が必要になります。
したがって、電子帳簿保存法対応は2023年12月まで猶予期間があるとはいえ、2023年10月のインボイス制度施行前までには電子帳簿保存法対応を完了させるように計画を立てる必要があるでしょう。
猶予期間に可能な限り業務効率化対応をしよう
また、インボイス制度が始まると売手・買手双方で、バックオフィスの業務が増えると予想されています。したがって、電子帳簿保存法の猶予期間中に最大限業務効率化を進めることが望ましいです。
例えば、請求書のやり取りが煩雑になることが予想されているので請求書のWeb配信の仕組み導入や、契約業務についても電子契約サービスの導入など、自社の業務負担を想定してシステム導入などを進めてください。
まとめ 猶予期間中に電子取引要件対応をしよう
電子帳簿保存法 電子取引要件における2年間の猶予措置は2024年1月には終了となる見込みです。
しかし、現状判明している情報を整理すると、2024年1月から施行される猶予措置を頼りにするのではなく、猶予期間中に電子帳簿保存法 電子取引要件対応を進めた方がよいといえます。
また、2023年10月施行のインボイス制度が施行されるとバックオフィスの業務が増えると予想されていますので、猶予期間中に可能であれば電子契約サービス導入などの業務効率化も検討ください。
猶予期間中に万全の準備をして電子帳簿保存法対応を実施していきましょう!