「電子契約を裁判所に提出して証拠として認められた判例ってあるの?」
「具体的な判例とは?」
と疑問に感じていませんか。
電子契約を裁判時に証拠として提出し、証拠としてみなされた判例はあります。また、電子署名が付与されていないメールを証拠としてみなした判例もあるようです。
しかし、いまだ電子文書を証拠としてみなした判例は少ないので、必ずしも電子契約が証拠として有効とは言い切れない点に注意が必要です。
当記事では、電子契約が法的に有効であるといえる理由、電子文書を裁判時の証拠として認めた判例を紹介します。
そもそも、電子契約は法的に有効
電子契約が法的に有効である理由を解説します。
契約はいかなる形式での成立する
そもそも、民法522条により契約はいかなる形式でも成立します。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
したがって、口約束などでも契約は成立します。しかし、口約束などの目に見えない形式で契約を締結すると後日裁判になった際に、証拠の信頼性を疑われかねないので、契約書を多くの場合で作成します。
電子契約の真正性は電子署名で担保する
書面契約において、その契約が本人の意思によって締結されたことを印鑑の押印によって判断しています。本人の印鑑が付与されていれば、二段の推定によって本人の意思により契約を締結したと見做すことができるのです。
電子契約では、この印鑑の押印の役割を電子署名が担っています。電子署名とは以下の電子署名法第2条の要件を満たしたデータ上の署名です。
第二条 この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。
この電子署名が付与された電子文書について、真正性が成り立つとしています。真正性が成立する旨は電子署名法第3条に記載があります。
電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
2020/7に立会人型電子契約サービスの法的効力も認められている
電子契約サービスは上述で紹介した電子署名を利用者自身が付与するか否かによって、以下の2タイプに分けられます。
- 当事者型
- 立会人型
当事者型とは、利用者自身が電子署名を付与するタイプの電子契約サービスです。ただし、利用者自身が電子証明書を発行する必要があるため、手間とコストがかかる点が課題です。
一方で立会人型であれば、利用者の代わりにサービスを提供する事業者が電子署名を付与するため手間とコストをかけることなく電子契約サービスを利用できます。昨今、市場でシェアが大きいのはこの立会人型の電子契約サービスです。
しかし、ここで「事業者が利用者の代わりに署名する電子署名は、電子署名法第2条に求められるような本人性の要件を満たしていないのではないか」という疑問がわきます。
この当然の疑問に対して、2020/7に総務省・法務省・経済産業省は、3省連名により、「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」が公表され、回答を得られるようになりました。
結論、立会人型電子契約サービスであっても、電子署名法第2条に求められるような本人性は満たせます。
しかし、判例が少ないため明確なことがいえない
電子署名法や政府見解を見る限り、電子契約サービスを利用して作成した電子契約は裁判時の証拠文書として信頼できると判断することができます。
しかし、電子契約が裁判時の証拠として利用されたことはあるものの、判例数が少ないため確実に電子契約が証拠として使えるかはいいきれません。
電子文書を裁判時の証拠として提出した判例はあるか?
上述した通り、電子契約を裁判時の証拠として提出し、証拠として認めた判例はあります。以下では判例を紹介します。
電子契約は民事訴訟法上の準文書に該当する
そもそも、電子契約が裁判の証拠として認められるか疑問に考える方も多いでしょう。上述した通り、契約はいかなる形でも成立するため電子契約は契約書として法的に成立しています。
また、裁判所に提出可能な証拠の種類は書面に限りません。電子契約などの電子文書は民事訴訟法上で準文書に該当し裁判に提出可能です。
裁判の証拠として電子契約が認められた判例はある
準文書に該当する電子契約が裁判の証拠として提出された判例として「東京地裁令和1年7月10日貸金返還等請求事件」があります。
判例の概要と判例の結論は以下の通りです。
判例の概要
A社と取引先B社が、相互極度貸付契約に対して電子契約サービスを利用して、双方電子署名を付与し、契約を締結後、貸付を実施しました。その後、書面契約を両当事者の実印を利用して締結したものの、B社が 利息の支払いを怠ったことで期限の利益を喪失し、A社が支払いを求めた判例です。
判例の結論
この判例では電子契約を利用して作成した契約はB社の意思に基づく電子署名により有効に締結されており、債務が存在すると認定 しています。
電子署名が付与されていない電子文書が証拠として認められた判例もある
電子署名が付与されていないメールを裁判時の証拠として認めた判例(東京地裁平成25年2月28日業務委託料請求事件)もあります。
判例の概要と判例の結論は以下の通りです。
判例の概要
A社(広告会社)はメールによって発注が実施されたとしており、B社(発注側)はメールが改ざんされたものであると主張していた判例です。
判例の結論
この判例では提出されたメールが改ざんされたものであると信じる根拠が乏しいため、メールの証拠として認めています。
以上のように、電子契約のような電子文書が裁判所に提出された証拠として認められた判例はあるものの、いまだ判例数としては少数のようです。
したがって、電子契約のような電子署名付の文書であっても、判例数の少なさから必ずしも証拠として認められるとは言い切れない点に注意が必要でしょう。
とはいえ、電子署名の付与の無いメールですら証拠として認められるのであれば、電子署名付の電子契約が証拠としての信頼性に乏しいと見做されるリスクは低いといえます。したがって、電子契約サービスを利用しない理由にはならないはずです。
電子契約サービス導入のメリット
判例数が少ないものの、裁判時の証拠としてみなされると考えられる電子契約ですが、電子契約サービスを利用して作成するメリットが多数あります。
印紙税削減などのコスト削減
電子契約サービスを導入することで以下のコスト削減効果を期待することができます。
- 印紙税の削減
- 書面契約の作成・郵送・管理コストの削減
- 監査コストの削減 など
世界No1シェアのDocuSign(ドキュサイン)を導入したソフトバンク株式会社では、1通あたり2,500円のコスト削減効果があったと公表していることからも、電子契約サービス導入によるコスト削減効果は大きいといえます。
取引のリードタイム短縮
郵便法が2021/10に改正され、普通郵便の最短配送日が翌々日になりました。したがって、取引のリードタイム長期化が懸念されます。特に海外企業とのやり取りや、NDAなどの修正が多数回発生する契約書をやり取りする場合などは、さらに長期化が課題となります。
この点、電子契約サービスであれば、契約締結用のURLを記載したメールを相手方に送付することで、クラウド上で契約を締結完了できるため、取引のリードタイム短縮を期待することができます。
更に、多くの電子契約サービスでは、契約書のテンプレート登録や一括送信機能を製品上に搭載している場合が多いため、リードタイムを短縮しつつ、業務効率化を期待することができる点が魅力的です。
法対応が容易
電子契約はExcelなどを利用しても作成することができますが、税法などで求められる要件を満たして保存する点が難しいです。例えば、電子帳簿保存法であれば、主要三項目で検索を可能にし、タイムスタンプの付与による真実性の確保などを求めています。
この点、電子契約サービスであればシステム上で検索性や真実性を容易に満たすことができます。加えて、法人税法上で求められるような文書の長期保存なども満たすことができることが多いため、法対応がしやすい点に特徴があります。
導入時の注意点
導入メリットの大きい電子契約サービスですが、一部導入時の注意点があります。
全ての契約書を電子化できるわけではない
法律上で契約書原本の電子化を禁じている場合があります。例えば、不動産業では一部の契約書に対して書面交付しなければならないと法律上で定めている事例があります。したがって、新たに電子契約サービスを導入するのであれば、対象帳票が電子化可能か事前に確認が必要です。
導入する電子契約サービスの市場シェア率が重視される場合がある
電子契約サービスを導入する場合、相手方に導入の可否を確認する必要があります。その際、電子契約サービスの市場シェアが低いサービスを利用する場合、相手方から導入に対して難色を示される場合がありますので注意が必要です。
昨今では、多数の電子契約サービスがあるため、すべての電子契約サービス経由での契約書の授受を認めてしまうと、その分セキュリティチェックや法対応の手間が増えます。
したがって、可能な限り市場シェアの高い電子契約サービスの利用に寄せる動きがあるのです。もし、確実に相手方に電子契約サービスの導入をお願いしたいのであれば、ある程度市場のシェア率が高い電子契約サービスを導入することをおすすめします。
まとめ 判例は少ないからといって電子契約を使わない理由にはならない
電子契約は裁判時に証拠として利用することができると考えられます。なぜなら、民法522条や電子署名法第3条から、証拠としての信頼性は法的にありますし、少ないながらも判例がいくつかあるからです。
しかし、やはり現段階では判例数が少ない点が懸念点です。したがって、電子契約が裁判時の証拠として利用することができるかは判例を引き続き見ていく必要があるでしょう。
判例が少ないとはいえ、証拠文書として利用できると見込まれますので、電子契約サービスの活用は進めた方がよいです。電子契約サービスを利用して契約業務を効率化していきましょう!